未曽有の事態

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未曽有の事態

「ありがとうございました~」 週末の閉店30分前の店内は、お客様も少なく、穏やかな時間が流れている。 あの酒の旨い夜から10数年の時間が過ぎていた。 あれから私は、ずっと南浦和支店に留まるわけにもいかず、数店舗の支店長を経て、今は蕨支店の支店長をしている。 あの夜一緒に酒を飲んだ酒井君は、今は専務となり本店で仕事に励み、入職3年目だった古田君は、最年少で支店長に抜擢され、活躍していると耳にしている。 私の義理の息子の剛は、店内の業務課長となり、孫は当金庫に勤めず、別の会社に就職し頑張っている。 理事長からはいい加減に交代してくれと言われているが、なんだかんだ理由をつけ断っている。私はもう理事長の椅子には興味はなく、いつまでも支店にいて、地域のお客様のために働きたいと思っていた。 「失礼します」と言い、私の前に副支店長が立った。 「2012年度の新人の配属について、後程、打ち合わせをお願いします。」 もうそんな季節か、来月には新人が入ってくるんだな、1年も早いなと思い、「分かりました。」と私は返事をした。 来年度の新人は男女それぞれ1名ずつ、この蕨支店に配属される。 人事部は私のことを忖度してか、なるべく学業の成績がいい人材を支店に配属させようとするが、私は人事部の選んだ人間なら、誰でも構わないと言っている。 誰であろうと、配属された人間を一人前にすることが私の仕事であり、何よりも彼らは、私の希望なのだから。 私は自席から立ち上がり、そろそろ閉店の準備に取り掛かろうとしていた時だった。 ロビーに点けてあるテレビのNHKから、「ヂャラン~ヂャラン、ヂャラン~ヂャラン」と聞き慣れない、しかし不安で不快な音が聞こえてきた。ロビーでお客様の案内をしていた課長も、緊張した顔でテレビを凝視している。 私も何事かと思い、ロビーに向かおうとしていた時だった。 足元が激しく揺れ出した。 「気をつけろ!」叫ぶのが精一杯だった。  
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