解任そして追放・・・

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「賛成8・反対2 よって賛成多数のため本議案は可決されました。」 司会進行の副理事長の宮代は、少し声がうわずっていたが、安堵の表情を浮かべている。一方、起案者の酒井専務は、静かに頭を下げていた。 (宮代の奴、こんなに覇気のある奴だったのか・・?)俺はこの現実をどこか他人事のように感じ、今更どうでもいいことを思っていたが、酒井の声で現実に引き戻された。 「左近元会長、土屋元理事長におかれましては、お二人の解任動議が決議されましたので、速やかに当金庫よりご退出ください!」 ひときわ元(もと)の部分に酒井は力を込めた。俺は言い返す言葉も浮かばないまま、酒井が続ける。 「これから我々は第2案の緊急動議を発案し、決議致します。お二人の私物等は、我々よりご自宅に送りますので、貴重品等があればお持ちになり、ご退出ください。そしてお二人には、今後一切の、当金庫への出入りを禁止致します」 その言葉と同時に、当金庫の警備員たちが、俺と元理事長の剛を、会議室のドアへと追い出すように押してくる。その時、再び酒井が声を上げた。 「第2案は南浦和支店支店長執行役員の門瀬忠雄(もんせただお)の解任を提案致します!」 「なっ!・・・」俺は警備員に押されながら、視界の端に門瀬の顔をとらえた。その顔は陸にあげられた魚のように口をパクパクさせている。 「解任理由は、一昨年のSARS騒動のおり、国民一人あたり10万円が支給されましたが、支給された支店職員の部下から、無理やり門瀬氏が没収し、そのお金を商品券に変え、元会長に上納致しました。この件は、当時の門瀬支店長の部下職員たちに聴取を行い、事実であると確認がとれております。」 「その他、数々のパワハラにより、支店職員たちが疲弊しているものです。よって門瀬氏は、当金庫の役職員にふさわしくないと考え、本案を起案するものです。」 酒井の言葉がそこまで聞こえたが、俺は会議室を無理矢理退出させられた。 警備員に手を引っ張られながら、(酒井の奴はいつからこの計画を考えていたんだ・・)と俺は考える。(門瀬の解任についても、俺の手駒をなくし、挽回の余地を与えないためであろう。そしてなにより驚くのは、門瀬以外の役員全てが足並みを揃えたことだ。誰か一人でも裏切れば、少しでも情報を漏らせば、この計画は成り立たないのだから・・・) エレベーターに押し込まれた俺と剛の目の前で、まるで「早く立ち去れ!」とでも言うように、勢いよくドアが閉じられていった。
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