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「皆さんおはようございます。いまだ大変な中、職員の皆さんには、朝早くから出勤して頂き、ありがとうございます。私の就任の挨拶の前に、
まずはこの度の震災で、亡くなられた方、被害に遭われた方に、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。」
と、私は目を閉じ軽く頭を下げた。
そして、私の正面に飾られている、初代理事長の肖像写真を見据え、
軽く一礼して、就任の挨拶を始めた。
「このたび私左近昭は、第4代埼玉県南信用金庫の理事長に就任致しました。思えば、私は数多くの失敗を繰り返し、今、この場に立っております。」
「しかしながら、今回のこの未曽有の事態は、私の経験や、私個人の力では、とてもとても乗り越えられるものではございません。」
「この埼玉県南信用金庫の初代理事長である神明万次郎氏は、戦後の混乱期において、地域住民の相互扶助と地域社会の復興を願い、私財を投げ出し、この信用金庫を設立されました。」
「初代理事長の設立されたこの信用金庫は、相互扶助の精神に基づいております。相互扶助とはお互いに助け合うことです。」
「そこで私から、皆さんにお願いがあります。」
「この未曽有の事態を乗り越えるために、どうかこの私に、皆さんの知恵と力を貸してください!お願い致します!」
私は会議室に集まった役職員と、テレビ画面の向こうにいる職員達に、深々と頭を下げた。そして、
「以上で、私の就任の挨拶となります。」
と言った。
パチパチパチ・・・と片隅から聞こえてきたその音は、すぐに会議室中に響き渡った。
私はゆっくりと頭を上げ、正面に飾られている初代理事長の肖像写真を見た。
その顔が、微笑んだように見えたのは、私の気のせいだろうか。
【完】
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