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直接対決!
次の日の夜、剛の運転する車に揺られながら、俺は暗い窓の外を見ていた。昨夜の中嶋・小泉とのやり取りを思い返す。
(あの2人がすんなり面会に応じたのは、あまりにも不自然だ。普通ならば、あんなことがあった後だから、俺には会いたくないはずだ。居留守を使うなり、門前払いなり、すればいいものを、わざわざ自宅に上げ、自分達の思いを俺にぶつけてから、追い払った。おそらく他の役員の所へ行っても、同じことであろう。あの酒井の入れ知恵で、元会長と元理事長が自宅に来たら、「せっかくの機会なのだから、長年の恨みをぶつけなさい。」とでも言ったのだ。まったく腹立たしい。)
剛の運転する車は、中仙道を赤羽方面へと向かい、戸田橋を渡り、都内へと入っていった。
(埼玉県の信用金庫に勤めているのに東京に住むとは、それも腹が立つが、まぁそんなことより、どう酒井と話すかだ。俺と違い酒井には、経営の経験がない、そして何よりも宝くじ付き定期預金のような、大きな実績もない。俺のカリスマ性により、この信用金庫はここまで大きくなったんだ!それをきちんと分からせてやる。)
酒井との対決を考えているうちに、車は板橋本町の交差点を左折し、環七に入り、東十条方面へと向かった。
さらに環七を左折し住宅街に入り、目的地の近くのコインパーキングに車を止め、歩いて酒井の自宅の前までやってきた。
我々の到着を待っているかのように、自宅には明かりが煌々と点いていた。
酒井の自宅の門扉の前に立ちインターホンを押す。
「はい」と女性の声で返事があった。
「左近ですが、酒井君はいるかな?」
すこしの沈黙のあと
「今、行きますので、お待ちください」
とインターホンが切れた。
玄関が開かれ、中から女性が出てきた。酒井の妻だ。我々2人は自宅の中へと案内され、1階の応接に通された。そこは、6畳ほどの洋室となっており、棚には洋酒などが飾られていた。
「今、参りますので、少々お待ちください」
と酒井の妻が言い、扉が閉じられた。
5分程、応接で待たされていると、コンコンと扉がノックされ、酒井の妻がお茶を3つ用意し、テーブルの上に置いた。
酒井の妻が部屋から出て行こうとした時、
「いや~お待たせいたしました」と快活な声を出しながら、きちんとスーツを着用し、笑みを浮かべた酒井が入ってきた。
手で合図を送り、酒井の妻は扉を閉じ、部屋には我々3人だけとなった。
「お待たせして失礼しました。まさか今日お見えになるとは思わなかったので」
酒井は変わらず笑みを浮かべている。
「小泉さんと、中嶋さんの2人だけでよかったのですか?もっと他の役員の所へ行って、お話を聞いたほうがよろしかったのでは?特に融資部長の西田さんは、左近さんが来られるのを楽しみにしてたんですよ。」
と、少々残念そうに酒井は言った。
「ふん、どこの役員の所に行っても同じだろうが」
俺は怒気を含んだ声で言い返した。
顔から笑みが消え、真顔になった酒井が聞いてきた。
「それでは元会長の左近さん。元理事長の土屋さん、改めてお伺い致しますが、ご来訪の理由をお聞かせください。」
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