五分後のリグレット

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 *** 「あーもう……だからそういう話は迂闊に喋るなって言ったんだよ。どうするのこれ」 「も、申し訳ありません……」 「ギリギリで、彼の魂がこっちに来る前に戻せたからいいけどさあ。後遺症が残る可能性はゼロじゃないし、起きた事件は取り消せないんだよ?後でどんだけ他の部署からクレーム来ると思ってるの……」  平謝りする神官に、僕はため息混じりに告げた。  神様、と呼ばれてはいても実際中間管理職のようなものだ。僕より上の存在は全部人間達にとって“神様”と呼ばれる存在である。その中でも下っ端の僕は、いっつもこうやって貧乏くじをひかされるのだ。何が楽しくて、不満たらたらの死者に真正面からクレーム対応しなければならないのか。  五分間だけ、死者を現世に戻すことができる。死者にはその権利がある、それは事実だ。  しかし、基本的にその話は、天国行きがほぼ確定している一部の死者にしか話さない。何故か。理由は簡単、それ以外の死者の八割が、現世でトラブルを起こすと知っているからである。特に、地獄行きまでとはいかずとも、多少なりに問題を抱えて死んだ――氏田冬子のような煉獄行き濃厚の死者なら特に。 ――夏目幸優(なつめゆきまさ)は、あのままだと死んでたし。氏田冬美にも周囲の人達にもトラウマ植え付けちゃったもんなあ。約束も破ったし、これ実質殺人罪相当でいいだろ……。  僕は頭痛を堪えながら、書類にハンコを押す。  ああいう手合いほど、人の話を最後まで聞かない。自分はちゃんと、“約束を破ったら地獄行きになるかもしれないよ”と言おうとしたというのに。 ――まったくもう、人間って面倒くさい。やっぱり、これ天国行きの人限定の権利に変えた方がいいよ。あとで要望書に書いておこっと。  後悔してももう遅い。  もっとも、やらかした当人がまともに後悔するのは、五分後どころか当面先のことになりそうではあるが。
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