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遠くの青春
セミの声が聞こえる教室で、あたしはぼんやりと外を眺めていた。
この教室からは、テニスコートが少しだけ見える。
先輩、いるかな。今日は暑いから大変だろうな。
その姿が目に映るチャンスを、あたしはずっと待ちわびている……。
「おい宮嶋。ずいぶんと余裕じゃねーか」
イライラした声が、あたしの乙女モードをぶち壊す。
ホント、こいつはデリカシーってものがないんだから。
「もう、うるさいなぁ」
「追試まであと一週間もないって分かってんの? ここで落ちたら、夏休み中お前に付き合った俺の労力が無駄になるだろ」
「なによ、あたしのせいみたいに。木崎が学校に来ないのがいけないんでしょー」
長い前髪と眼鏡の奥からのぞく木崎の目が、あたしをにらみつけている。
はいはい、やればいいんでしょ。
のそのそと机の上のプリントに向き合う。
ゆる巻きにした髪は、暑さですっかりカールがだれてしまった。ああ、最悪。
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