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憧れを見た日
スカートは膝下、ソックスは白、肩につく長さの髪は黒か茶のゴムで結うこと、靴は学校指定のもの、メイクやネイル、アクセサリーは厳禁。
大人が決めたルールを守ることは苦じゃなかった。学校なんてこんなもんだと思っていたし、先生にあれこれ言われるのが面倒くさかったから。
でも、クラスには必ずルールを守らない子がいた。当然、先生に見つかっては怒られて、職員室に呼び出されて注意を受ける。ひどいときは親にまで連絡がいって怒られる。そんな面倒な事態になっているのに、その子たちはまた同じようにルールを破る。そしてまた怒られる。そんなことを繰り返していた。
そこまでして、マスカラをつけて色のついたリップを塗ったり、スカートを短くして紺色のハイソックスをはいたりするその理由が、さっぱり分からなかった。
ある日、そんなルールを破る側の女の子に声をかけられた。
「ねぇねぇ、宮嶋さん。スカート、ちょっとだけ貸してくれない?」
普段あまり話すことなんてないからびっくりしてしたし、そのお願いも意味が分からなかった。
「え、どうして」
「今日の昼休み、呼び出しくらってたんだけどさー。長い方のスカート持ってくるの忘れちゃって。宮嶋さん、身長同じくらいだし、そのスカートだとオッケーもらえるから。ね、昼休みだけ。お願い」
顔の前で両手を合わせるその子は、とても可愛かった。ゆるく巻かれた長い髪ときっちり整えられた前髪、ピカピカに磨かれた爪、こっそり開けられたピアスの穴は、同じ歳だと思えないくらい彼女を大人に見せた。
昼休み、あたしのスカートをはいて髪を束ねたその子は、みんなに冷やかされて恥ずかしそうにしていた。
「えー、ちょっとスカート長すぎじゃない?」
「そんなのありえないわー」
「やだ、これ宮嶋さんから借りたのに」
その瞬間、クラス中の視線があたしに集った。スカートの代わりにジャージをはいたあたしは、なぜか無性に恥ずかしくなって、うつむいて聞こえていない振りをした。
なんとなく気まずい雰囲気が教室を支配する。
「あ、もう行かなくっちゃ。早く返さないと悪いし」
そう言って、あたしのスカートをはいたその子はそそくさと職員室に向かった。
あたしと同じものを着て、同じような髪型をしているくせに、その子はやっぱりあたしとは違った。
「ありがとー。助かったよ」
昼休み終了のチャイムとともに返ってきたスカートは、あたしのじゃない香りが少しだけ残っていた。
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