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宗方先輩と出会ったのは、そんなときだった。
先輩のことはなんとなく知っていた。
テニス部のキャプテンだったり、文化祭でバンドのボーカルをやったり、運動会や球技大会でひときわ大きな声援を受けていたりした人だったから。
先輩の周りにいるのは、あたしとは違う世界の人たち。ルールを破る側の人たちだった。
そんな先輩とあたしは同じ図書委員になって、くじ引きで当番が一緒になった。
放課後の図書館にはあんまり人が来なくて、暇を持て余したあたしたちが話をするようになったのは必然だった。人気者の先輩は違う世界のあたしにも優しかった。あたしが先輩のことを好きになってしまったのも、必然だった。
だけどときどき先輩の友達が顔を出すことがあって、そんなときあたしは、まるで用事があるみたいに、誰も来ないようなかび臭い本棚の間に逃げ込むしかなかった。
世界の違いが恥ずかしくって、悔しかった。
だけど、あたしはすっかりできあがっているその境界線の越え方が分からなかった。
そして先輩は卒業していき、あたしは先輩がいる高校にいくことに決めた。
卒業式。校長先生の話、仰げば尊し、最後のホームルームが終わると同時に、あたしの中学校生活も終わった。だけど、ピリオドのつけ方が分からなくて、あたしはなんとなく廊下をうろうろと歩き回っていた。
「せんせー!」
バタバタと足音がして何人かがあたしを追い越していった。ふわりと風が舞い上がる。その風は、あの日、あたしのスカートに残っていた香りがした。
先生今までありがとー。おう、高校行っても頑張るんだぞ。たまに遊びに来てもいい? たまにならな。ジュースおごってよ。おいおい、勘弁してくれよ。
「あいつまじウザい」「少しは真面目にやれ」とお互いに嫌い合っていたはずの人たちがそうやって笑い合ったり、涙ぐんだりして別れを惜しんでいた。信じられなかった。
短いスカート、紺色のハイソックス、少し染められた長い髪、涙で落ちたマスカラ、あたしにはない香り。あたしとは違う世界。あたしが行けない世界。
その世界にはキラキラが溢れていた。
気が付けばあたしは、いつの間にか校門の外にいた。あたしの中学生活は、キラキラの残骸すらないまま、終わった。
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