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高校に入学するまでの間、あたしはドラッグストアに行ってメイク用品を買った。世の中にはコスメが溢れかえっていて、ちょっと気を抜くと溺れてしまいそうだ。
ファンデーションを塗るには下地が必要で、ウォータープルーフのマスカラを落とすにはクレンジングオイルが必要で、髪の毛を巻くにはヘアアイロンが必要だ。
でも、少しずつ変わっていく鏡の中の自分を見るのは楽しかった。
高校の入学式に向かう途中、あたしはスカートを折り返して少し短くした。膝に触れる風が少しくすぐったかった。
教室に入ると、チラッと視線を向けられた。
変じゃないかな。メイク、派手だったかな。ナチュラルメイクってやつにしたんだけど。髪型、崩れてるのかも。後ろのほうはまだうまく巻けないし。
ヤバいヤバいヤバい。やっぱりやめておけばよかった。そんな後悔と一緒に入学式に出た。
教室で最初のホームルームが終わったとき、担任のよっちゃん(さすがにその日はスーツだった)が、
「宮嶋と香山、ちょっと」
と、手招きした。あたしの隣に立ったのは、すごく可愛い子だった。中学のときだったら、ルールを破る側の女の子。
濃いブルーのアイラインが長いまつ毛によく似合っていた。リボンはああやって少し緩めてつけるとカッコいいんだ。横目でちらちらと観察する。
「今日は初日だから多めに見てやるけど、明日からは身だしなみ、気を付けろよ」
先生は、おどけたように私たちをにらみつけると、教室を出て行った。
誰もいなくなった教室で、あたしたちは顔を見合わせた。
「怒られちゃったね」
香山と呼ばれたその子は、小さく舌を出して笑った。
「うん」
「あたし、香山和佳奈」
「えっと、宮嶋智彩、です」
「そのリップ、可愛いね」
「そのアイラインもすごく可愛い」
そして、あたしたちは友達になった。
あの日見たキラキラに、ほんの少しだけ手が届いた気がした。
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