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チャイムが鳴った。
「智彩、帰ろ?」
「うん……」
テストはさんざんな出来だった。中学の頃、真面目に過ごしていたあたしは、成績は悪くないほうだった。だから、白紙に近い状態のテスト用紙を提出するなんて、初めての経験だった。
キラキラの代償は大きい……。
「大丈夫だって。最初のテストなんて腕試しみたいなもんだからさ。次、しっかりやればいいじゃん」
「そう、だね。帰ろっか。あれ、和佳奈、今日は彼氏と一緒に帰るんじゃなかったっけ」
「うん。あ、来た来た」
和佳奈が入り口に向かって手を振った。その視線の先にいたのは短髪の男子生徒。ん? あのネクタイの色は……。
「二年生?」
男子のネクタイと女子のリボンは、ストライプに入っているカラーが学年によって違う。一年生は赤、二年生は青、三年生は黄色。あの人のネクタイには青いラインが入っている。
和佳奈の彼氏って先輩なの? まだ一ヶ月しかたってないのに、和佳奈ってやっぱりすごい。本日三度目のポカン。
「お待たせー」
「ううん。智彩、これがあたしの彼氏」
「水沢直哉でーす。直哉って呼んでね。きみが友達の智彩ちゃんでしょ。和佳奈から聞いてるよ」
ぺこりと頭を下げながら、胸がじんわりと温かくなった。和佳奈、あたしのこと友達って話してくれてたんだ。
一学年違うだけなのにずっと大人に見える。和佳奈は、その隣にいてもあんまり違和感ないけど、あたしは、大丈夫かな。
「智彩、どしたの?」
「あ、ううん。何でもない。いつの間に彼氏なんか作ってたの?」
和佳奈が一瞬、きょとんとした顔になって、直哉くんと顔を見合わせると、二人で笑い出した。
「違うよー! あたしたち、付き合ったのは中学から」
「え、そうなの?」
けらけらと笑いながら和佳奈はあたしの肩を叩いた。
「直哉が卒業するとき、あたしが告白したの。んで、同じ高校に入ったわけ」
ねー、と直哉くんを見て小首を傾げる。その仕草がとても可愛い。それを見る直哉くんの目もとても優しかった。
いいなぁ。あたしも、宗方先輩もこんなふうに……いやいや、まさか、そんな、あたしとなんて。
「じゃあ、智彩も一緒に帰ろ」
「いいの? 邪魔じゃない?」
「邪魔だったら誘わないよ。行こ行こ」
和佳奈があたしの手を引いた。和佳奈を包んでいたキラキラが、あたしにも分け与えられたような気がした。
「ハンバーガー食いに行こーぜ。智彩ちゃんも時間ある?」
「あ、はい。大丈夫です」
「大丈夫です、だって。智彩ちゃんかわいー。和佳奈もこれくらいおしとやかならいいのに」
「ちょっと、この人うるさくない? 智彩の知り合い?」
「ひどい!」
和佳奈と直哉くんの掛け合いはテンポがよくて、思わず笑ってしまう。
二人と一緒にいると、宗方先輩のことを考えてしまう。
先輩は、いまのあたしを見たらなんて言うかな。
先輩、少しだけ、あたしもそっちの世界に行けた気がしてるんです。ちょっとくらい近くにいくことは、許されますか?
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