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「あれ? もしかして宮嶋?」
ずっと聞きたかったその声が聞こえてきたのは、和佳奈と飲み物を買いにいった渡り廊下だった。
先輩、あたしのこと覚えててくれたんだ。それだけでも嬉しかった。
「宮嶋、ぜんぜん雰囲気変わったじゃん! 一瞬分かんなかった。この高校だったんだね」
「そうなんです。先輩も、ここだったんですね」
嘘。追い掛けてきたくせに。
だけど、そんなことは言わない。
先輩に会えるかもって期待して、全学年が通るこの渡り廊下によく来ていたことも。
「分かんないことあったら俺になんでも聞いてよ。俺、先輩だからさ!」
「おい、なに下級生ナンパしてんだよ。可愛い子には目がないからなぁ、悠は」
「違うって!」
先輩は一緒にいた友達のお腹を殴る真似をした。あたしたちはそれを見て笑った。
先輩の友達に可愛いって言われた。もう一緒にいるところを見られてもいいんだ。隠れなくてもいいんだ。
あたしの入れなかった世界の扉が開いた気がした。あたしは、ちゃんと境界線を越えられたんだ。
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