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失われた夏休み
返ってきた成績は最低だった。とても胸を張って見せられるものじゃない。
「あー、やっぱちょっとは勉強しなきゃダメかな」
「そりゃちょっとくらいはねー。一応この高校だって進学校だし?」
うーん、キラキラするって難しい。
「てかさ、聞いた? 学年トップってどうやら木崎らしいよ」
「へー。頭いいんだね」
その本人は、テストが終わるとまた学校に来なくなった。空いた席は、いつの間にかあたしの定位置に戻っていた
「不登校ってやつなのかな」
「どうなんだろ。でもま、いろいろあるんだろうね」
和佳奈は紙パックのリンゴジュースのストローに口をつけた。
「それより、今度みんなで遊びに行こうよ。映画とか」
「二人で行きなよ。邪魔になるなんてヤダもん」
「誘いたい人とかいないの?」
そう言われて、あたしの頭に浮かんだのは宗方先輩。
だけど、誘えるわけなんかない!
「もしかしてさ、あの宗方って人のこと好きなんじゃない?」
和佳奈があたしに顔を近づけて、こそりと言った。
「べ、別にそんなことないし! あの人は同じ中学の先輩! ただの!」
「やだー、智彩。真っ赤だよ。可愛いなぁもう」
そう言いながら、和佳奈はあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
和佳奈に可愛いって言われると、なんだか認められたみたいな気がして嬉しくなる。スカートの短さを肯定されたみたいで。早起きしてした今日のメイクも正解! って言われたみたいで。
「どいて」
ハッと見上げると、木崎くんがあたしたちを見下ろしていた。この人、いつからそこに立っていたんだろ……。
「そこ、俺の席だから」
なんかデジャヴ。
向かい合うあたしたちを、教室中が固唾をのんで見守っている。
「ご、ごめん。今日は学校来たんだね」
「来たら悪いわけ? 人の席に勝手に座るほうが悪いと思うけど」
いや、そんなこと言ってないじゃん!
あたしになんて目もくれず、木崎くん――いや、こいつに『くん』なんてもったいない――木崎は席に着いた。
学年トップかなにか知らないけど、こいつイヤなやつ!
そんなあたしの心の叫びになんて気付くはずもなく、木崎はすました顔をしていた。
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