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ことの始まりは、期末テストの結果が発表されたあの日にさかのぼる。
「木崎健斗、宮嶋智彩。二人とも職員室まで来るように」
教室がわずかにざわめいた。みんなの視線が、滅多に登校してこないレアキャラにさり気なく集中する。
その視線のなか、眼鏡を掛けた黒髪の男子生徒が、気だるそうに立ち上がった。
木崎がいる、というだけで、教室はいつもと雰囲気が変わってしまう。
男子はいつもよりはしゃいでいるし、女子はいつもより声が大きくなる。なんだか浮ついてるような、そわそわしている感じ。
みんなが木崎の気をひこうとしているみたい。
こっちを見て。
話しかけて。
教室ではそんなアピール合戦が繰り広げられる。
当の本人は我関せずって顔で、誰とも話さないし、気が付けば昼休みには帰ってしまっていたりする。そして、木崎がいなくなったあとの教室には、まるでお祭りが終わった会場みたいに物悲しさがただようのだ。
話しかけることすらためらってしまうような、そんな空気をまとった木崎は、なぜかクラスの、というか、学年の中でも目立っていた。
ちっともクラスに馴染もうとしないそんなレアキャラと一緒に呼び出されるなんて、いったい何ごと――なんてことはなく、だいだい予想はついていた。
職員室では、担任の吉岡先生――通称、よっちゃんが、苦々しい顔をしていた。黒のジャージをステキに着こなす数学教師は、大きくため息をついてみせた。
「呼び出された理由は分かるな」
「えっとぉ……」
「分かりません」
木崎がさらっと答える。
え、こいつ、バッカじゃないの? これからお説教タイムなのに、なんであおるようなこと言うわけ? あたしまで巻き込まれちゃうでしょうが。
「まあ、理由は正反対だからな。宮嶋、お前は成績が悪すぎる。無遅刻無欠席は立派だが、結果が伴ってない。前回の中間テストも今回の期末もほぼ最下位だ。それに、スカートが短い、化粧もしないようにと注意も受けてるだろ。高校に入って最初の年なんだ。もう少し気を引き締めないとダメだぞ」
「はぁい……」
大人しく返事をしたものの、心の中では舌を出していた。ゴメンね、よっちゃん。
「で、木崎。お前は二回とも学年トップ。成績にはこれっぽっちも文句ないが、出席日数が少なすぎる。入学してから登校したのは今日で何回目だ? ん?」
「生徒の出欠くらい把握してますよね。担任なんだから。だいたい、やることはきちんとやってます。こいつと一緒にはされたくないです」
「な……っ!」
生意気なうえに失礼すぎる。
あたしだってこんなやつと一緒にされたくなんかない!
て言うか、こいつってこんなに喋れるんだ。クラスには、木崎の声を聞いたことないって人だっているはずだ。
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