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「木崎。学校っていうのは勉強だけする場所じゃないんだぞ。協調性だったり、仲間を思いやる気持ちだったり、そういったものを学ぶことが大切なんだ」
そうだそうだ。よっちゃん、もっと言ってやれ。木崎の顔を横目で見ながら、あたしはひそかにほくそ笑んだ。
「とはいえ、勉強が大事なのも確かだ。分かるか宮嶋」
「あ、はい。次から頑張りまーす」
矛先がこちらに向かってきたので、あたしは慌てていい子の顔を作る。でも、よっちゃんは呆れたように、がりがりと頭をかいた。
「お前たちは危機感ってものがないな。このままだと次がないぞって話をしてるんだ、いまは。特に木崎。お前は進級自体が危ないんだぞ」
脅すようなよっちゃんの言葉に、あたしも木崎も口をつぐんだ。
「そこで、だ。先生が妙案を思いついた。宮嶋の成績が上がり、木崎の協調性と仲間意識が養われ、出席日数をカバーできる、最高のアイディアを」
よっちゃんはそう言って、にっこりと笑った。
大人がこういうふうに笑うときは、たいていロクなことがない。
よっちゃんの『妙案』とは、夏休みの間、木崎は学校であたしに勉強を教え、そして最終日に行われる追試に合格すれば、晴れて二人とも無罪放免という、なんともあたしたちに丸投げな『妙案』だった。
「こいつが追試に合格できなかったら?」
「そりゃお前、分かるだろ。ご愁傷様ってやつだ」
二人がそろってあたしの顔を見る。ええ……なんか、あたしにかかってるってこと?
仕方ない、と言わんばかりに、木崎も大きく息をついた。
「よく分かりました」
何かをたっぷりと含んだような嫌味な物言い。こいつ……さてはイヤなやつだな。
「おい、お前」
職員室を出ると、木崎があたしに声を掛けてきた。
あんまり話したこともないのに『お前』って、馴れ馴れしくない?
「こんな面倒くさいこと、さっさと終わらせんぞ」
あたしの返事も待たずに、木崎は足早に行ってしまう。
なによ、ちょっと頭いいからって。
あたしを置いて教室に戻る木崎の背中に、あたしは思いっきり舌を出してやった。
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