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「――でね、和佳奈聞いてよー。あいつったら三時までみっちり。もう公式とか英語の例文とかで頭おかしくなりそう」
「はいはい、お疲れ様でした」
補習終わりに待ち合わせをしていたのは、友達の香山和佳奈。あふれ出るあたしの愚痴を、にこにこしながら聞いてくれる。
クーラーのきいたカフェは天国だ。ついでに冷たいロイヤルミルクティーも最高。
「でもさ、木崎と一緒なんてけっこうツイてると思うけど。あいつ、女子にも人気あるじゃん」
夏休みなのに、和佳奈は制服を着ている。休日一緒に遊びに行くときも、ほとんど制服だ。
「だって三年しか着られないんだもん。たくさん着ておかないともったいないでしょ」
そんな理屈も、何となく納得してしまう雰囲気が和佳奈にはある。
和佳奈はセンスがいい。ボタンの開け方、袖のまくりかた、スカートの丈、ソックスの長さ、その他いろんなものが、すごく自然で、さまになっている。
長いまつ毛に施されたネイビーのカラーマスカラも、唇に塗られたオレンジレッドのリップも、桜貝みたいな色のネイルも、和佳奈が手に取って身に着けたものは、すべてがキラキラと輝いて見える。
あたしなんか、雑誌やネットで流行を調べたり、鏡の前で何度も確認したりしなきゃ怖くて外になんか出られないのに。
「なんであんなヤツが人気なんだろ。みんな見る目ないよね」
「だって、めっちゃ頭いいくせに、ガリ勉の真面目くんって感じじゃないし。あんまり学校来ないってとこもなんかミステリアスだし。たぶん眼鏡を外したらけっこうイケてるんじゃないかって女子で噂になってるよ」
眼鏡を外したときの、切れ長の目を思い出した。レンズ越しじゃないあの目を知っているのは、きっとクラスであたしだけ。そう思うと、何だか悪い気はしなかった。
「なんか不思議だよね。木崎がいるとそっち見ちゃうって言うかさ。派手だとかそういうんじゃないのにね。むしろ地味なほうだし。だけど、なーんか見ちゃうんだよね。気になっちゃう」
悔しいけど、和佳奈の言ってることは分かる。
クラスのみんなが木崎の気を引きたがるのも、そういうことだ。
そこにいるだけで注目される。
ただ外を眺めているだけの横顔に、みんながうっとりしてしまうような、そんな雰囲気が木崎にはある。
イヤなやつだけどな!
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