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「で? 愛しの宗方先輩とはどうなの? 少しくらい進展あった?」
ニヤニヤしながら和佳奈が身を乗り出した。恋バナはいつだって女の子の一番の話題。
「うん、聞いて聞いて!」
あたしは、今日先輩に会った話をする。どこで会って、どんな格好してたか、どんな話をしたのか――あ、でもあの非常階段の話はしなかった。先輩が内緒って言ったし。それに、あたしと先輩だけの秘密にしておいたほうがずっといい。ドキドキする。
宗方先輩は、あたしの同じ中学の先輩で、あたしがこの高校を選んだのは先輩がいたから、だったりする。
我ながらストーカーじみてて気持ち悪いかなって思うけど、少しでもそばにいられたら、先輩の姿を見られたらって思ったから。勉強だって一生懸命頑張った。
「智彩の一途さには参るよねー。何年片想いしてるんだっけ」
「いいでしょ、別に。和佳奈だって直哉くんを追い掛けてこの高校に来たくせに」
直哉くん、とは一学年上の和佳奈の彼氏。
「でも、あたしは直哉と付き合ってるしー?」
パッションフルーツとマンゴーのスムージーを突きながら、和佳奈がちょっと優越感をにじませる。
くぅ、悔しい……!
「先輩とLINEの交換はしたんでしょ? じゃああとはガンガンやり取りして、二人で遊びに行ったりして、告ればいいじゃん」
「簡単に言わないでよ」
先輩は、昔のあたしを知ってる。地味で、誰の目にも映らないような、そんなあたしを。
可愛くなったって先輩に言われて嬉しかった。だけど、以前のあたしは先輩にどんなふうに映っていたんだろう。
そう思うと、あたしは先輩に向かって一歩を踏み出すことができなかった。
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