嘘つき、嘘に溺れる

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 釘をさした。秀はゆっくりと振り返ると、眉を寄せた。 「なにを?」  俺は答えなかった。秀は首をかしげて、部屋を出て行った。 「……誰が面倒看ると思ってるんだよ、ふざけんな」  腹立ちまぎれに、閉まったドアに罵った。写真の中で、梨子が笑ってる。あんなカスでも、梨子の、大事な弟様だ。そうじゃなければ、とっくに……。  学校に着いたのは、昼休みの途中だった。その頃には雨はすっかり上がっていたが、中庭には生徒の姿はなかった。芝生やベンチが濡れているためだろう。校舎内は晴れの日よりも騒がしい。廊下にまで生徒のおしゃべりや笑い声が聞こえてくる。秀は俺の後ろで頭が痛いだのなんだの言っているが、無視して教室のドアを開けた。  途端。 「秀くんっ」  嬉しそうに、腰まである長い天然パーマの髪を揺らして、桃野美希(もものみき)が駆け寄ってきた。クラス中の視線が集まるが、全く気にしていないらしい。 「秀くん、おはよう!」  桃野は俺なんか見えないかのように言った。実際、見えてないんだろう。どうでもいいけど。 「桃野さん、おはよう」
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