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でも。どうせすぐ別れるだろうから、そんなに気を揉む必要はないと思うんだけどな。
「それよりも、俺の席を返せ」
平川は、はいはいと、渋々そうに弁当をしまった。
五限も六限も終礼も、今日の行程がすべて無事に終わり、放課後がやってきた。秀は鞄を机に置いたまま、俺の席まできて、言った。
「先生のとこ行く」
ほぼ毎日、同じセリフを同じ時間に聞く。秀の言う先生、とは、世界史を担当している教師のことだ。俺は頷いた。
「わかった」
「空は先に帰ってもいいよ」
わーい、帰ろう、ってできるわけがないだろ。秀は窓の外を見たまま、俺と目を合わせようとしない。俺はため息をこらえて、短く答えた。
「いや、一緒に行く」
「……そう」
俺は財布と携帯だけポケットに突っ込んで、鞄は机にのせたまま、同じく手ぶらの秀と教室を出た。出るときにちらりと視界に入った桃野が、何か言いたそうな顔をしていた気がするが、たぶん気のせいだろう。
放課後の廊下は、ジャージ姿の生徒が目に付く。万年帰宅部の俺と秀には関係のないことだけど。今度の大会がどうとかいう会話が耳に入ると、俺の青春はどこに消えてしまったのかと思う。
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