嘘つき、嘘に溺れる

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 秀は猫の体を撫でながら、顔をあげて史人を見ている。俺は秀のこの唐突さがどうしても苦手だった。慣れはした、したけれど。やっぱり、どうしても不愉快だ。この超絶自己中は、誰かを不愉快にさせているかどうかなんて興味もないんだろうけど。  史人は困ったような表情で、わからない、と言った。 「申し訳ないけど、俺は椿木とは関わりがなかったんだよ。それこそ、一年のときに世界史を受け持ったくらいで」  もう、何度も。一学期、この駐車場で史人が猫に餌をやってるのを見て以来、秀は史人に懐いているが、史人は秀に梨子のことを訊かれるたびに、根気強く今のようなことを答えていた。  わからない、知らない、関わりがなかった、と。  そしてそれは当然とも言える。梨子が部活をやっていてその顧問だった、とかならともかく、梨子は帰宅部だし、史人は梨子の担任をやっていたわけでもない。ただの教科担が、なにも知るわけがないのだ。本当なら、こんな質問をほぼ毎日されるのが嫌になって、秀を邪険に扱ってもおかしくない。
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