嘘つき、嘘に溺れる

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 梨子が死んだのは自殺だって言われている。だけど、どうして梨子が死ななきゃならなかったのか、誰にもわからなかった。想像すら、できなかった。友達も多く、家族仲も良かった。弟の秀とはべったりなくらいに、仲良しだったし、成績や運動能力も抜群で、おばさんも梨子を自慢の娘だと言っていた。 そして恋人である俺ともうまくいっていたから。  ……わけがわからない。  数学の本を閉じ、俺はそれを本棚に戻した。この二年間、こうして無意味に時が過ぎていってる。あれ以来、秀は薬に依存するようになったし、俺はそんな秀をよりいっそう、嫌いになった。  俺と秀はもうすぐ、二歳年上だった梨子の年齢に追いついてしまう。あんなに梨子と同級生になりたかったのに、全然、嬉しくない。  今度は机の引き出しを開けてみた。中に何が入っているのかなんて知り尽くしているけれど。
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