嘘つき、嘘に溺れる

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 一番上の引き出しには、小さなメモ用紙を折りたたんだような、女子がよく交換している手紙が入っている。これを最初に見つけたときは、もしかしたら梨子の自殺の手がかりなんじゃないかと思い、読みあさったものだ。けれど、たいしたことは書かれていなかった。数学の教師がムカつくとか、そういう、自殺とは縁のないどこにでもいるような女子高生が話す内容くらいで。  俺は二番目の引き出しを開ける。たくさんの単語帳。これも、全部見た。もちろん、英語とその和訳しか書かれていなかったし、俺の頭にはなにも残らなかった。梨子はこれで暗記していたのかと思うと、頭の作りが違うんだな、と素直に思えた。  そして、三番目の引き出し。俺はいつも、この引き出しを開けるとき、少し躊躇する。入っているのは、たった一枚の、写真だ。おばさんが撮った。梨子の家の前で、俺と梨子と秀が並んでいる写真。  三人一緒の写真はたくさんあるはずだ。だけど、それはすべて小学校に上がる前のもので、最近のものは、この一枚しかない。理由は単純。俺が秀を嫌いで、秀が俺を嫌いだから、梨子を挟んで三人で仲良く……なんてできなかったからだ。
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