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鍋の汁が沸騰し、野菜が煮えたかどうか確認しようと蓋を開けた西君が、ようやくぶ厚すぎる大根に気が付いて絶望的な顔になった。取り出して切るには熱すぎるし調理時間も終了間近。もう手遅れだ。西君は肩を落として味噌を投入した。けなげにもきちんと分量を測っているのが痛々しい。
他人事ながら、試食するのが気の毒になる出来映えだ。
「あー、まあ、うーん、うまいよ。うん」
豚汁を食べた西くんが言った言葉は衝撃だった。味オンチだという訳ではないのは、頬が引きつっているのでよくわかる。あきらかに無理している。
西くんの一言は、同じ物を食べている班の皆にも、あまりにも意外すぎたようだ。同じ生煮えと泥付きの具を噛みくだきながら、しかめ面をしていたメンバーが、思わず盛大に吹き出した。
おかげでジャガイモと大根の担当者が責められることはなかったが、味見に回ってきた家庭科教師は大根を箸で突き刺すと、「んー、厚すぎるから、火が通ってないね」と当たり前すぎるコメントをして、食べることなく箸を抜き取った。お椀に口をつけ、「うん、出汁と味付けはいいんじゃないの」と言って次の班に移動して行った。
(やっぱり大根は生だったんだ。和歌の好きな人、なかなかいい人じゃないの!)
幽霊なのにキュンとした。
(…うん、和歌の相手に不足なし!)
私はあらためて心に誓った。和歌の恋を成就させてあげよう!
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