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「あっ、悪ぃ!」と言うと、男子は逃げて行ってしまった。
二階堂えりが逃げた男子を追いかけようとしたが、頭から水をかぶった当の本人である和歌は、「大丈夫だから、いいよ」とえりの腕を引いて引き留めた。
そしてハンカチをポケットから出して顔をぬぐいながら笑った。その笑顔が明るくて、本当に怒ってないという感じだった。
えりは男子を追いかけるのはあきらめ、自分のハンカチで和歌の背中を拭いた。一緒にいた少女達も和歌を取り囲んで、口々に文句を言いながらハンカチやタオルで和歌をこすり、水が滴っている髪の毛は、タオルで髪を挟んで握るようにして水滴を吸い取る。
「あれ? えりのスカートも少し濡れているよ」と今度は和歌がえりのスカートを拭く。
西くんは友達に取り囲まれて、笑っている和歌の横顔をじっと見つめていた。私はほんの少しだけ、息が詰まるような気がした。もう呼吸なんかしていないのに息がつまるなんて変だけど。
私はその場から離れて、逃げて行った男子を追いかけた。そして背後から背中におぶさった。子泣き爺という妖怪が自分の体重を増やすこともできるというのを思い出し、漬物石になったようにイメージする。冷たい手で首をしめるように触ることも忘れない。和歌が許しても、復讐の座敷童は許さないのだ。
「さみいっ」と男子が悲鳴をあげる。
クスクス。イラスト:ハナ様
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