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「和歌、そのくらいの丈の方がいいよ。可愛い」
それでも言わずにはいられない。私が和歌の変化にひと役かったのは確かだ。たとえ、私しか知らなくても。口に出して和歌を褒めると、やっぱり口惜しさよりも嬉しさが増してきた。野球だってサッカーだって、応援しているチームが勝ったら嬉しいじゃないか。それでいいんだ、と自分に言い聞かせた。そう思うのに、その場にいて和歌とえりを見続けるのはいたたまれない。
「西君に和歌のスカートの事を教えなきゃ」と私は呟いて、西君を探しにふわりと浮かび上がった。
西君は昇降口にいた。靴を左手で出したものの、包帯で巻かれた右手が使えないので靴が履きにくそうだ。一緒にいた友達が「なにやっているんだよ」と軽口を叩きながらも、西君の鞄を持ってあげている。
靴を履こうとかがんでいる西君の丸い背中に、私はそっと寄りかかった。
(どうか重くありませんように)和歌に水をかけた男子の時とは逆の事を願う。(そして冷たくて驚かせませんように……。ほんの少しだけ、靴を履く間だけ、寄りかからせて)
「ありがとう」
西君の声にはっとした。見上げると、西君は待っていてくれた友達に顔を向けていた。私への「ありがとう」じゃなかった。だけど西君のありがとうは温かくて、いつまでも耳に残った。また聞きたいな……とふと思う。
イラスト:ハナ様
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