JK幽霊の暇つぶし

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 その命はあなたのものじゃない。私のものでしょ? 死ぬのは私じゃなくて、あなたでしょう?  嫌なのに、私の体がどんどん黒く染まっていく。水に墨汁を垂らしたみたい。違う、そんなに透明な黒じゃない。たとえば腐りかけの牛乳に泥水を混ぜたような。濁った。臭い。べたついた……。  「い、イヤ!」    割れそうに痛む頭を必死で抱え込んだ。  嫌だ、黒く染まりたくない。悪霊になんかなりたくない。それなのに黒い感情が私を襲う。  苦しいよ。だから学校から出てはいけなかったんだ。そうだ、学校に戻ればいいんだ。もう一度、全部忘れて。  忘れるんだ。あの日のなにもかも。  忘れる、と決心すると、悪霊化が止まった。  そして私はまた記憶を手放していく。ひとつ、またひとつ。あの日の出来事を朝から一つずつ。  朝起きたら、お母さんがお弁当を作ってくれていた。忍び足でしのびよって、その背中を叩いて、「おはよう」って声をかけたら、お母さんは驚いて、本当に「ひゃあ」と言って飛びあがった。  それを見たお父さんが笑っていた。弟は部活の早朝練習に行くために急いでいた。パンの方が早く食べられるのだろうが、頑固なご飯派だからその日のメニューも白いご飯と納豆だった。パジャマのまま、パック入りの納豆を高速でかき混ぜ、シーチキンを投入。さらに数回かき混ぜてから、ご飯にの上に乗せてかき込んだ。頬を膨らませて、もぐもぐと噛む様子は小さな頃から変わらない。  食べ終えると縞柄のパジャマを大急ぎでソファに放り出し制服を着ると、「行ってきまーす」と慌ただしく玄関を出て行った。  お弁当はカニカマを巻いた卵焼き。コロッケは、昨日の夕食のコロッケの具材をお弁当用に取り分けておいて、今朝、小さな丸形に揚げてくれたみたいだ。それにちくわの磯部揚げ。  なぜなんだろう。忘れないといけないのに、好きなものばかり。  私はお弁当を包んで水筒を鞄に入れ、美環高校に登校した。  「おはよう」  「おはよ!」
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