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校門をくぐり、私は校舎の上からではなくて歩きながら挨拶を交わしている。
そうだ。文化祭が近かったんだ。全クラスの立て看板が門を入ってすぐに並べられていた。
私のクラスはかき氷屋さんだった。美術部の私と紬が描いた下絵に皆で色を塗ったんだ。
その日の朝、飾られたのだ。私は駆け寄って眺める。晴れがましい、浮き立つような気持ち……。
なにもかも全部、シャボン玉が生まれて消えるように、思い出が浮かんでは、はじけて消えていく。
「やだ、やっぱり忘れたくないよ……」
けれど、他人事みたいに驚いた顔をしているドライバーの顔がチラつくと、どす黒い感情が湧きおこってくるのを止められない。
止まっていた悪霊化がふたたび始まる。怖い。しかしその恐怖でさらに悪霊化が加速していく。そして黒い渦の中に落ちていくような気がする。
「ごめん、ごめんね」遠くで誰かがあやまっている。「謝っても許されることじゃないよね。でも、ごめん……」
聞き覚えのある声に、耳を傾ける。紬だ。なんで紬が謝るの? 大丈夫だよ、紬はなにも悪くないんだから。たとえ私が悪霊になったとしても、紬にはなにもしない。
「ごめん」
けれど紬は苦しそうにあえぐ。どうして?
私は黒い渦から手を伸ばし紬に差し伸べた。慰めたくて。黒く染まったこの手でも、紬に触れていいだろうか?
「あれ……?」
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