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右手だけが黒く染まっていない。私は自分の白い右手を見た。なぜだろう……? 思い出そうとすると、頭がキリキリと痛んだ。
「私のせいで」
紬が言った。私はまた放課後の事故現場に引き戻された。車に轢かれるその前に……。
「ツムギッ!」
私は紬の手を強く引いていた。そして自分の方に紬を引き寄せ……、体の位置が入れ替わっていた。
そうか。そうだったのか……。
「私、助けてもらったこと、私の代わりにあなたが死んじゃったんだっていうこと、言えなくて。あなたのお母さんとお父さんに、本当は言わなきゃいけないって分かってるのに。言えなくて……。でも言わなきゃって。今日こそは言わなきゃって」
私は紬に向かってまっすぐ歩いた。黒い渦を抜け出て、紬に向かって両手を伸ばした。
紬を腕に抱きしめる。
紬の熱く熱をもった額に、おでこをくっつける。紬の頭を抱き寄せ、なんども撫で、ふと違和感を感じた。
「紬よりも頭の位置が高いなんて変な感じ……」
くすくす笑う。
紬の方が私よりも背が高いので、並んで話すときにはいつも少し見上げるようにしていたことを思い出した。
私は地面から二十センチ浮かび上がって、紬のおでこに自分のおでこをくっつけた。紬の瞳を覗き込む。紬と一緒に笑いあいたい。もう一度。
紬の涙を白い右手でそっと拭う。
「紬、帰ろう。ここはお互いに辛いことばかり思い出しちゃう。ね、私も紬の家に一緒に行っていいかな?」
紬の腕に自分の腕をからめて歩く。生きている時に戻ったみたいだ。うきうき足が文字通り浮き上がる。
けれど横を見ると、紬はまだ暗い顔をしていた。
「紬の家に遊びに来たのは、初めてだね。おお、ここが紬の部屋か!」
何とか元気になって欲しくて、明るく話しかける。
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