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紬がベッドに寝転ぶ。私も隣に転がった。紬が仰向けのまま、スマートフォンを取り出した。横に寝ている私にも画面がよく見える。紬は通信アプリをチェックし、簡単に返信を送ると、画面を切り替えた。
日付毎にならんだ写真をスクロールしていく。イーゼルに載せてある描きかけの絵。風景画だ。大学でも美術サークルのようなものがあるのだろうか。
「紬、がんばってるんだ……」
泣いているばかりじゃなかった、と少し安心する。
さかのぼって大学の入学式。着なれていないスーツ。
「でも可愛い! 似合ってるよ」
紬の指が画面を弾いた。写真が時を遡る。高校生の紬。隣で笑っているのは私だ。
入学して一番運がよかったことは、紬と同じクラスだったこと。
「この子とは仲良くなれそう」ってすぐに思った。入学式の後の高揚感、新しいクラスへの不安にざわつく教室で、紬は私に話しかけてくれた。
「うちの犬がね、今朝私が新しい制服着ていたら、すごい不審な目で見てきたー」
なんて、なんでもないことで笑ったよね。
二年生になって、また同じクラスになって抱き合って喜んだ。
紬の指がふと止まる。
「あ、この写真って、あの時の?」
私の小指と紬の小指をからめた手だけが大きく映っている指きりの写真。これは確か、文化祭のかき氷の看板描きを口実に、学校に居残って色んな事を話した時に撮ったものだ。
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