第1章 円を描く小指

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 ここで死ぬのだと思った。  明確な殺意を持って僕らに迫る怪異に、それでもなお抗う方法など、見当たらなかった。  だから、僕がどうしてこの時、その一言を発することができたのか。  それは、未だにわからない。 「松留久作さん」  ――小指の集合体は、僕の喉元スレスレで、動きをピタリと止めた。 「あなたが住んでいた場所に、行ってきました」  そう、その名は、今やおぞましく変わり果ててしまった彼が、かつて呼ばれていた名前。 「みんな、心配してました。勝蔵さんも、道吉さんも、久作さんに、会いたいと」  指が、迷い悩むように僕の目の前で蠢いた。 「だから、久作さん……!」  しかし次の瞬間、僕の首に指が食い込んだ。  ――いや、食い込む寸前で、僕の右耳を掠め真っ黒な腕が伸びた。その腕の先には、スタンガン。 「続きは、痺れながら聞いてくれ」  右腕を指でできた触手の内側にねじ込む。バチリという激しい音と焦げ臭い匂いが辺りに満ちた。曽根崎さんは、今度こそ、指の塊――久作さんに、電撃を食らわせることに成功したのだった。
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