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しかし、どこから手をつけるというのだろう。なんとなく曽根崎さんについてきたはいいものの、今の所その辺を歩いているだけだ。これでは、彼のペースに合わせたただの散歩である。
沈黙に耐えられず、曽根崎さんに話しかけた。
「……目星はついてるんですか?」
「何の?」
「犯人の」
「そうだな、厄介じゃなきゃいいなと思う」
願望だそれは。頼りないな。
「何からやります? 給料貰うからには、僕も手伝いますよ」
「お、やはり持つべきものは金で動く部下だな」
「それ褒めてませんからね?」
「そんな景清君に頼みたいことがある」
夕焼けの赤が、まるで血のように道路を照らす。そこを指差す曽根崎さんの顔も、血の色に染まっていた。
「私の推測だと、ここに次の指が出現する」
「……ここですか?」
「そうだ」
「……聞きたいことが渋滞してるんですが、それで僕は何をすれば?」
「指を探せ」
断りたい。めちゃくちゃ断りたい。なんで、そんな不気味極まりないものを探さなくちゃいけないんだ。
だけど、手伝うって言ったしな。
「……しょうがないですね」
「うむ、這いつくばって地面を舐めるが如く探せ!」
「うるさいなあ、ちゃんと探しますよ。でも、なんでここに出現するってわかるんですか?」
「マッピングの成果だよ。どうもこの指共は、一定の法則に従って現れているようだ」
「一定の法則?」
「……とある場所に向かって、円を少しずつ狭めていくように動いている」
――まるで、じわじわと標的をいたぶり追い詰めるように。
姿すら想像できない何かに、背筋がぞくりとした。
「……何のために?」
「そこまではわからん。だから、指を持って本陣に斬りこもうかと考えてる」
「本陣……ああ、小指の行き先ですか」
「この依頼の大元もそこだと私は睨んでるんだ。解決してやると言えば、多少の情報提供はあるだろ」
「そう上手くいきますかね」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、と言うだろ。つまり頑張ろう」
「今頑張ってるの、僕だけですけどね……」
ぼやきながら、それでも目線は地面から外さない。だけど、いくら探してもそれらしき物は何も見つからなかった。
もしかして、探す範囲が悪いのだろうか。猫がくわえてたって話も聞いたし。そう思いながら、顔を上げようとした時だった。
虹色の光が、視界の端で瞬いた。
「……こちらを向くな、景清君」
張り詰めた曽根崎さんの声に、体が硬直する。――ああ、まずい。この人が、こういう声になる時は。
「目を閉じろ。私がいいと言うまで開くなよ」
「……」
「そうだ、それでいい」
目を閉じる。何も見えない。脳裏に、虹色の光がこびりついたようにチカチカしている。息の一つすら、することが怖かった。
――聞いたことのない甲高い音が、一瞬、僕の前を通り過ぎた。
「景清君」
曽根崎さんの呼び掛けに、止めていた息をプハッと吐いて目を開けた。振り返ると、彼は腕組みをして電柱にもたれていた。
「すまん。既に指は通り過ぎたと思っていたが、違ってたな」
「それって結構危なかったんじゃ?」
「そうでもない。精々死ぬかもしれなかったぐらいだ」
「最悪の結果じゃねーか!」
「まあ向こうは危害を加えるつもりはないようだぞ。少なくとも今は」
「全然安心できませんよ……。それで、見たんですか」
「いや、埋まってたから完全には見えなかった」
「埋まってた?」
「うん。あれは地中を移動してる」
モグラか?
「……穴を掘って移動してると」
「そうだ」
「それじゃ、残土が出るはずでしょ。そんなものは見当たりませんが」
「知ってるか。前に向かって穴を掘りながら、通ってきた穴を埋めていけば、理論上残土は自分の分のスペースだけ最初に掻き出しとけばいい」
「でも、それだと息ができませんよ」
「だから時々呼吸しに地上に出てきているんだろ」
曽根崎さんは、体を折り曲げて何かを拾い上げた。
「もしかするとこれは、そういった役割なのかもな」
その手には、生々しく血が滴る、千切れた小指。
「やはり、これは私向けの案件だったようだ」
曽根崎さんは、そう言うと、口角を上げて笑った。多分愉快でもなんでもなく、何なら少し怖いのだろう。僕は何も言わず、曽根崎さんにハンカチを差し出した。
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