第1章 円を描く小指

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「アイテムもゲットしたし、本丸に特攻するぞ!」 「構いませんが、ちゃんと考えてます?」 「勿論。まず、この指を受付に持って行ってだな……」 「はい」 「話がわかる人を連れてこいと叫ぶ」 「叫ぶの!? なんで!?」 「ドラマとかだと大体こんな感じだろ」 「ドラマ参考にすんな! だめですよ、絵面が完全に猟奇的なそれじゃないですか」 「そう?」 「来るのは話がわかる人じゃなくて警察でしょうね」 「あ、まずい。依頼主来るじゃん」 「来ますよ。やめましょう」 「じゃあどうする?」 「僕に聞きます?」  曽根崎さんが、期待を込めた眼差しでこちらを見つめている。やめろ。積極的に僕の意見聞こうとするな。頼りにするな僕を。  だけど、このままだと曽根崎さんが連行されそうだしなあ。片手で髪をかきあげ少し考えた後、提案する。 「……僕が、受付の人と話しましょう」 「お、ラッキー」 「ラッキー言うな! 警察呼ばれたらすぐ曽根崎さんを売りますからね!」 「絶対君も道連れにする」 「やめてください!」    しかし、僕が行くと決まったものの、今の時刻は午後5時。果たして、今から行って話を取り次いでくれるものだろうか。  曽根崎さんに問うと、ケロリとした顔で返してきた。 「通すに決まってるだろ。訳のわからん物体が、弄ぶように狙ってきてるんだぞ」  それもそうか。じゃあいいか。  こうして、僕たちは謎の小指が狙う場所へと向かったのであった。 「着いたぞ。ここだ」 「ここって……」  曽根崎さんが指し示す建物を見上げる。まるで箱のような見た目の、何の変哲もない建造物だ。しかし、僕が驚いたのはそこではない。 「幸山バイオ研究所じゃないですか」  文系の僕ですら知っている、地元では有名な企業だ。農作物の遺伝子組み換えなどを主な研究対象とし、就職先として希望する大学生も多い。  だけど、なぜ小指モグラはここを狙っているのだろう。  腕組みをする僕に、曽根崎さんは中に入るよう促す。 「頼んだぞ、景清君」 「はいはい」  ポケットに入れたハンカチに包んだ小指の存在を確認し、自動ドアを潜り抜ける。清潔で、いっそ殺風景なロビーだ。僕は曽根崎さんを連れて、ポツンと設置された受付に向かう。  受付に人はいない。代わりに、インターホンが置いてあった。呼び出しボタンを押し、しばらく待つ。 「……どちら様でしょうか」  生身だが、機械的な女性の声がした。僕は、意を決して用件を告げる。 「……このたび、幸山社長からのご依頼を受けました曽根崎と申します。経過報告に上がりました」 「事前のアポイントメントはおありですか」 「いえ、事態は急を要しましておりまして」 「そうですか。では、確認してまいります」 「ああ、その前に、お伝えいただきたいことがあります」 「なんですか」  恐らく、これを伝えると伝えないとでは、対応は180度違うだろう。向こうに心当たりが無ければ、通報ものだけど。 「……新しい小指を手に入れました、と」  さあ、どうなる。 「承知しました」  特に相手側に動揺もなく、通話が切れる。……これで良かっただろうか。僕はフーッとため息をつき、曽根崎さんを振り返った。  が、曽根崎さんは人差し指を口に当ててこちらを睨んでいる。なんで? なんか悪かった?  怪訝な顔をしていると、曽根崎さんはトコトコやってきて、突然僕の頭を撫でた。 「な、何するんですか!」 「あれ、違ったか。上手に取次ができたから褒めたかったんだが……」 「子どもじゃないんですから!」 「……防犯カメラで見られてる。せっかく上手くできたんだ、抜かるなよ」  僕にしか聞こえないよう、耳元で囁かれる。ああ、なるほど。その為の人差し指だったのか。  っていうか、それに気づけるほど用心深いのに、この人なんで受付で叫ぼうとしてたんだ。やっぱわかんねぇな。 「……来てくれますかね」 「危機管理ができている人間なら来るよ」 「できてない人だったら?」 「どうなるかな。小指側の思惑がまだわからんから、なんとも言えん」  そこまで話した時だった。受付の後ろにあるドアが、薄く開いた。 「どうぞお入りください」  先ほどの機械的な声の女性である。曽根崎さんを振り返ると、小さく頷き、中に入るよう目で促してきた。いや、アンタが先行けよ。なんで僕だ。弾除けか。  しかし、ここで揉めていても不審がられるだけである。後で覚えとけと心の中で毒づきながら、奥へと足を踏み入れることにしたのだった。
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