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「アイテムもゲットしたし、本丸に特攻するぞ!」
「構いませんが、ちゃんと考えてます?」
「勿論。まず、この指を受付に持って行ってだな……」
「はい」
「話がわかる人を連れてこいと叫ぶ」
「叫ぶの!? なんで!?」
「ドラマとかだと大体こんな感じだろ」
「ドラマ参考にすんな! だめですよ、絵面が完全に猟奇的なそれじゃないですか」
「そう?」
「来るのは話がわかる人じゃなくて警察でしょうね」
「あ、まずい。依頼主来るじゃん」
「来ますよ。やめましょう」
「じゃあどうする?」
「僕に聞きます?」
曽根崎さんが、期待を込めた眼差しでこちらを見つめている。やめろ。積極的に僕の意見聞こうとするな。頼りにするな僕を。
だけど、このままだと曽根崎さんが連行されそうだしなあ。片手で髪をかきあげ少し考えた後、提案する。
「……僕が、受付の人と話しましょう」
「お、ラッキー」
「ラッキー言うな! 警察呼ばれたらすぐ曽根崎さんを売りますからね!」
「絶対君も道連れにする」
「やめてください!」
しかし、僕が行くと決まったものの、今の時刻は午後5時。果たして、今から行って話を取り次いでくれるものだろうか。
曽根崎さんに問うと、ケロリとした顔で返してきた。
「通すに決まってるだろ。訳のわからん物体が、弄ぶように狙ってきてるんだぞ」
それもそうか。じゃあいいか。
こうして、僕たちは謎の小指が狙う場所へと向かったのであった。
「着いたぞ。ここだ」
「ここって……」
曽根崎さんが指し示す建物を見上げる。まるで箱のような見た目の、何の変哲もない建造物だ。しかし、僕が驚いたのはそこではない。
「幸山バイオ研究所じゃないですか」
文系の僕ですら知っている、地元では有名な企業だ。農作物の遺伝子組み換えなどを主な研究対象とし、就職先として希望する大学生も多い。
だけど、なぜ小指モグラはここを狙っているのだろう。
腕組みをする僕に、曽根崎さんは中に入るよう促す。
「頼んだぞ、景清君」
「はいはい」
ポケットに入れたハンカチに包んだ小指の存在を確認し、自動ドアを潜り抜ける。清潔で、いっそ殺風景なロビーだ。僕は曽根崎さんを連れて、ポツンと設置された受付に向かう。
受付に人はいない。代わりに、インターホンが置いてあった。呼び出しボタンを押し、しばらく待つ。
「……どちら様でしょうか」
生身だが、機械的な女性の声がした。僕は、意を決して用件を告げる。
「……このたび、幸山社長からのご依頼を受けました曽根崎と申します。経過報告に上がりました」
「事前のアポイントメントはおありですか」
「いえ、事態は急を要しましておりまして」
「そうですか。では、確認してまいります」
「ああ、その前に、お伝えいただきたいことがあります」
「なんですか」
恐らく、これを伝えると伝えないとでは、対応は180度違うだろう。向こうに心当たりが無ければ、通報ものだけど。
「……新しい小指を手に入れました、と」
さあ、どうなる。
「承知しました」
特に相手側に動揺もなく、通話が切れる。……これで良かっただろうか。僕はフーッとため息をつき、曽根崎さんを振り返った。
が、曽根崎さんは人差し指を口に当ててこちらを睨んでいる。なんで? なんか悪かった?
怪訝な顔をしていると、曽根崎さんはトコトコやってきて、突然僕の頭を撫でた。
「な、何するんですか!」
「あれ、違ったか。上手に取次ができたから褒めたかったんだが……」
「子どもじゃないんですから!」
「……防犯カメラで見られてる。せっかく上手くできたんだ、抜かるなよ」
僕にしか聞こえないよう、耳元で囁かれる。ああ、なるほど。その為の人差し指だったのか。
っていうか、それに気づけるほど用心深いのに、この人なんで受付で叫ぼうとしてたんだ。やっぱわかんねぇな。
「……来てくれますかね」
「危機管理ができている人間なら来るよ」
「できてない人だったら?」
「どうなるかな。小指側の思惑がまだわからんから、なんとも言えん」
そこまで話した時だった。受付の後ろにあるドアが、薄く開いた。
「どうぞお入りください」
先ほどの機械的な声の女性である。曽根崎さんを振り返ると、小さく頷き、中に入るよう目で促してきた。いや、アンタが先行けよ。なんで僕だ。弾除けか。
しかし、ここで揉めていても不審がられるだけである。後で覚えとけと心の中で毒づきながら、奥へと足を踏み入れることにしたのだった。
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