それがプロポーズだとまだ知らない

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それがプロポーズだとまだ知らない

 惚れた弱みというのだろうか、こういうのは。  どんと出された黒焦げの何かを目の前にして、俺は顔に出さないように徹してそんなことを考えた。黒焦げの“何か”を出してきた恋人は、向かいに座ってニコニコといい笑顔を見せている。それを崩すのは、とてもじゃないができなかった。 「どうぞ!召し上がれ!」 「…………いただきます」  結局、なんの気まぐれか初めて料理なんてした恋人の自信気な笑顔を無下には出来ずに、俺は箸を取る。しかしどうしたもんだろう。まずどこから食えばいいのか、とんと分からない。  箸を持ったまま、うんうんと悩む俺を見てか、彼は心配そうに眉尻を下げた。 「……食べたくない?」  しゅんと垂れる耳が見えた気がして、俺は大慌てで首を横に振った。そんなわけない。初めて作ってくれた手料理だ。無理してでも食べようという気概はある。  覚悟を決めた俺は、大皿に乗った黒焦げの塊を一つ掴んで口に放った。 「ど、どう?おいしい?」  美味しくは、ない。苦い、し、少し固い。
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