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美しき天使の涙
ハァハァハァ。
メディは既に冷たくなったジョアンナを抱え、二階の窓から外が見える位置まで運んだ。
「あぁ愛しのジョー。君の愛と慈しみは僕の家族やその子孫たちをずっと見守ってくれるんだね。ありがとう、愛してるよジョー。君と僕は永遠に一緒だ」
『パーシアス。僕達は君の思い通りになんてならない。君は無様に嘘をつき続けずっと呪われるがいい!』
メディはそう言うと大きなナイフで自らの胸を刺して息絶えた。
◇◇◇◇◇
先の世界大戦の際にアルヘイムと手を結び敗戦を喫した国がある。大陸の西に位置し他の列強の国々と接する工業大国だ。当時の国の名はボルキスと言い、戦後ボルクとされた。どちらも民衆と言う意味だ。
皆の記憶から戦争の記憶が忘れられる頃になると戦後復興も進み、古くから技術の定評もあり、先端技術、特に工業分野において世界1を常にアルヘイムと競う技術大国である。
国土面積は35万km とアルヘイムの37万km とほぼ同じであるが、アルヘイムではエルフ達の居住可能面積が約1/3であるのに対し、ボルクは2/3と使える面積が広く、特に人の集まる場所ではアルヘイムでは往々にして混雑が見られるが、ボルクはどちらかと言えば優雅な雰囲気がある。人口はこの近隣諸国では最も多いがそれでもアルヘイムの65%程度でしかない。
遠い過去にアルヘイムの一人の尊き魔女が生物の生き方を教え彼らの寿命は爆発的に伸びた。寿命が延びると必然的に荒々しかったその気性も穏やかになり、今では優雅な種族として近隣国からも愛されているが冗談の通じない人も多く真面目な人達が多い事でも有名だ。
しかし更に昔、先の大戦よりも遥か遠い昔からこの近隣の国々は争いを続けている。近隣国イカリーのラーマと言う首都も過去に覇権を争った際の名前の名残だ。
神々から言わせれば『愚かな欲望に満ちた行為を繰り返す』以外の何ものでもなく『なんの為に支配したいのか?』を争う者達に問えば、まともな神経を持つものであれば、とてもまともになど答えられる者はいないだろう。彼らの弁明は『命よりも大切なものがある』と言っては戦争を始め、そして『命程大切なものはない』と言っては戦争を終わらせる事を幾度となく繰り返していた。そんな愚かなる争いは、平和や民衆の救いを目的とした国の併合などとは全く意味が異なるものだ。
争いというその愚かな行為は国と国の間だけでなく、国の中の地域でも行われている。ボルキスでは表向きには連邦共和制が採られいくつもの種族の自治に委ねられていたが実質、支配していたのは一部の血筋に頼る貴族達と魔法が強力な魔法使いや魔女達だ。民衆は常に搾取され酷い迫害を受け続けていた。
過去にその強力な魔女達の魔法に抗う事が出来たのは、民衆の味方と言われ続けたやや特殊な種族に類する者達だけであった。
アースグス種である。
神々から愚かな戯言と嘲笑の対象となってはいたがアースグス種を貶める為に貴族や魔女達は懸命にアースグス種の悪い噂を流し続け、民間の伝承では酷い話が残っている事もある。
アースグス種は他の珍しい魔物などとも異なりかなり特殊な進化を遂げている。
珍しい魔物が数多く生まれるのはここアースと言う星において遺伝子の変異が繰り返されたからであり、その進化は地球のある世界のものと同じだ。
どの世界であっても進化は『適者生存』によって成り立つ。
例えば一部の偶蹄類などを除いた指を持つ動物で現在残る者達は全て指の基本数は五本である。親指や小指が退化しかけたり変形したりしてそうでないと見えるものも一部にはいるが、これらも基本的な数は必ず五本だ。人が感じる時の流れにおいては随分と前の話になるが、地球のある世界においても、実は進化の過程において一時期、四本や六本、七本の指といった進化をした者達もいる。しかし彼らはことごとく進化の過程においては短な間に絶滅していた事を化石達が教えてくれる。
実に不思議と思われるかもしれないが『適者生存』とはこのようにまるで誰かに造られたルールでもあるかのごとく振る舞う事が多い。
この『適者生存』とはあたかも神のごとく種族を亡ぼし続ける『神罰の別の呼び名』なのか『神々が決めた運命』なのかもしれない。
真っ白な肌と美しい金髪を持つアースグス達は二本の腕以外にとても美しい純白の羽根を持ち自由に空を飛んだ。
指と同様に昆虫以外では手足の合計は概ね四本であり『ハーピー』や鳥などの羽根を持つ鳥類は手にあたる部分が羽根に進化したものである。彼らは飛翔しながら常に排泄を行い、また彼らの骨は中空で、軽さを追求した進化を遂げている。その為骨は表面は少しだけ強いが『骨粗しょう症』のごとく非常に割れ易く闘争には向いておらず常に逃げる事に秀でた弱者と呼ばれる側である。
しかしアースグス達の骨は人と同じようにしっかりとしたもので、飛ぶ際に魔法を併用しているため、その羽ばたきに比してとても優雅に飛んでいるように見える。
二本の腕を持ちそれ以外に羽根を持つ種族は、ここアースにおいてもあまり多くは存在しない。
分類上は生物とは呼べないが普通では見る事すら叶わない神の使徒『天使』はまさに彼らにそっくりな姿である。またアースグス達は『アンドロギュヌス』(両性具有)であり、神々の呪いを回避しようとその存続の可能性を高めて進化している事もまた天使と同じだ。アースグス達の事を天使と呼んだ者達も多い。
通常と異なる進化も神達は気に入らなかったのかも知れない。そしてアースグス達は空を飛び高所に登っては地上を神のように眺めることが好きで辞められなかったが、これが神の怒りに触れたのだろう。
過去にも神々はいくつもの神罰を与えている。知恵の実を食べ神のように知恵を持ったり、天にまで届く塔を作り続け神のように地上を見下ろそうと試みたりした際に、神々は苛烈な怒りと神罰を与えている。人に寿命があるのもこの為だ。これは神と同じことをする事が許せないからに他ならないのだが、そう考えればなんとも神とは狭量なのかと呆れるばかりである。
神と同じ事をする故の神罰なのであろうか? アースグス種は不治の病の発症率が他の種に比べ異常に高い。過去に一時期、優生学的に病を発症した遺伝子を持つ者達が虐げられた事があった。しかしそれは『差別である』と活動家達から指摘され立ち消えとなり、今では長命なこの世界においてアースグス種は若年でも不治の病を発症するようになり短く命の炎を消し今まさに滅びようとしている。これは『アースグスの呪い』と呼ばれていた。
アースグス種最後の一人、美しき『ジョアンナ』は旅の途中、数多くの暗く見えるトウヒに覆われた黒き森と呼ばれる広大な森林近くの小さな村にいた。一人の子供が貴族と魔女の乗る馬車を止めてしまい、貴族達の怒りに触れ蹴られ続けていた。古くからの言い伝えである『民衆の味方』と言われ唯一対抗可能だと言われるアースグス種がいた事で、廻りの人々はジョアンナに頼り物陰から見ているだけであった。神々から嫌われ、貴族や魔女達からも嫌われ、そして今や民衆達からも見放されようとしていた。
ジョアンナは貴族やましてや魔女達に対抗する力など全く持ってはいない。しかしジョアンナは子供が蹴られているところに飛び込み子供を逃がすと、今度はジョアンナが幾人もの屈強な貴族の従者に押さえつけられ、貴族と魔女に蹴られている。良くても犯され、悪くすればこのまま殺されてしまうだろう。
「うっ、はぁはぁ、き、貴族様、お急ぎのところに子供が飛び出してお時間を無駄にしてしまいましたが、け、蹴ったりしてより時間を浪費してしまいました。このまま、わ、私を蹴り続けてはさらに、じ、時間を無駄にしてしまうのではありませんか?」
「クックックッ、そうだな。お前は愉快な程に美しい。蹴り殺す代わりにとっととお前をここで犯すか持ち帰って性奴隷にでもするかだな」
ケッケッケッ。
屈強な従者達もいやらしく笑う。
貴族が笑いながら動けないジョアンナの腹を思い切り蹴るとジョアンナは呻きながら気を失った。
◇◇◇◇◇
その時、緑の風が吹き廻りの屈強な従者達が辺りに吹き飛ばされた。
そして貴族と魔女は首筋を押さえ呻いている。何かに噛まれたようだ。
緑の腕を持つ異形の若者は
「これは子供とこの娘の分だ!」
と言い、目にも止まらぬ速さで左右の回し蹴りを繰り出し貴族と魔女を二度ずつ蹴った。異形の若者はジョアンナを抱え物陰に隠れていた民衆を蔑むように一瞥すると、バサバサと黄金の羽根を羽ばたかせて黒き森の奥深くに飛び去った。
後に貴族と魔女は死に、その死後硬直は異様に硬くなった。噂が噂を呼び、異形の若者は石化魔法を使ったと言われた。さらに後にその話を聞き及んだ統治者から討伐の人員として時の英雄『パーシアス』が送られて来ることになるのである。
◇◇◇◇◇
バサバサバサ。
ふー、僕の羽根だと一人を担ぐと厳しいな。
異形の若者『メディ』は自分が生活する洞穴にジョアンナを運んだ。ベッドに横たえ小さな灯りをつけるとそこには気を失っている天使がいた。メディは指を組み合わせ涙を流しながら懺悔した。
『あぁ、天使さま。こんなになるまで僕が助けに行けなくてごめんなさい』
ぼ、僕みたいな異形の者がこんな綺麗な天使様を触っちゃっていいのかな。いや触らないと治療出来ないか。
メディは棚から打ち身の薬壺を取り出すと、靴跡のついたジョアンナの服を開いた。真っ白に透き通る肌が蹴られた跡で赤黒く腫れ上がっている。メディはジョアンナに治癒魔法をかけ、薬を恐る恐る丁寧に塗り、布を当ててジョアンナの体に巻いた。熱を帯びた辺りは水に浸した布をよく絞り冷やした。そして早くよくなるように言霊を唱えジョアンナをぐっすりと眠らせた。ようやく安らかな寝顔になりメディは安心すると同時に『もし彼女が目が覚めたらどうしよう』と心配した。
隠れるか? 逃げるか? 彼女が目を覚まして僕がいたら間違いなく悲鳴を上げて走って逃げ出すよな。怪我もしているのに彼女にそんな負担はかけられない。僕が隠れてるしかないな。
ジョアンナの熱で熱くなった布を取り替えているうちにメディは眠ってしまった。
◇◇◇◇◇
メディが『ハッ』と気が付くと、とても良い匂いがした。
「あら、丁度よかったわ。今出来たところなのよ。これをそっちのテーブルまで運んで頂戴」
「えっ!」
この娘は異形の僕が怖くないのか? 何故料理なんか作っているんだ。
「あらやだ、私ったら、これじゃあまるで私のお家みたいだわ」
「き、君は僕の事が怖くないのかい?」
「何を言ってるの。あなたとてもハンサムじゃないの。早く運ぶのを手伝って頂戴」
「はい」
僕は魔法にかかったようにジョアンナに魅せられ従った。
「私は旅をしていて少しなら食料を持っているのよ。私ので作ったから心配しないで頂戴。さあご飯を食べながらお話しましょ」
「はい、頂きます♪」
「い、頂きます」
パクッ。えっ何これすごく美味しい。パクパクパク。
「うふふ、そんなに急いで食べたらむせちゃうわよ」
ゴホッゴホッ。
「ほら、今言ったばかりじゃないの」
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要なんてないわ。ところであなたが私の事を助けてくれたのね。ありがとう、本当に命拾いをしたわ」
「いや、僕こそ助け出すのが遅れてすまなかった。僕がもっと早くに見つけていれば君がこんなに酷い怪我を負うこともなかったのに、、、」
「あら、そんなのあなたのせいじゃないわ。自己紹介が遅れたわね。私はアースグス種のジョアンナよ。ジョーって呼んで頂戴」
「えっ、アースグス種だって?」
あーははははは、ひぃ苦しい、ははははは。
「ちょっとー、あなた失礼じゃないの? 私はこれでもアースグス種に誇りを持っている最後の生き残りなのよ。もう!」
「いや、はひ、ごめんごめん。君やアースグス種の事を笑ったんじゃないんだ」
「じゃあいったい何を笑ってるのよ」
「いや、グリモアや賢者達が書く書物には、アースグス種は悪魔のようだってみんな書いてあるじゃない。嘘っぱちばっかりだ。こんな天使のように美しい君がアースグス種だと言うのが真実だっていうのがおかしくてさ」
「あら、おだてても干し肉の追加はないわよ」
誰かと一緒に食事するなんていったいいつ以来だろう。子供の頃かな。
こんなに楽しかった食事は本当になかった。
「あなたの種族とお名前は?」
「僕はゴーゴ種のメディだよ」
「その金色の羽根は神々しくてとても綺麗だわ」
「でも僕の手は緑だし、小さな角や牙もある」
「ほんの少しキスする時に邪魔かしら」
「キっキスだって?」
「あら、あなたした事ないわけないわよね。こうするのよ」
ジョーは席を立ち僕の脇に来て僕の顎を寄せ、くちびるにキスをした。
「助けてくれてありがとう」
子供の頃の記憶をたどっても親にすらキスされた記憶はない。僕はしばらく呆然とした。
「ねぇ、聞いてるの?」
「ごめん、何?」
「もう、その可愛い頭のヘビちゃんの事よ」
僕の頭には三匹のヘビが住んでいる。
「これは子供の頃にヘビを助けた事があるんだ。そしたらヘビの神様が出てきて『一生お前の事を守ってやる』って言って自分の子供達を僕の頭に住ませたのさ。それ以来僕の手が緑になったんだ」
「まぁなんて神様なのよ。助けなければよかったじゃないの」
「そんな事はないよ。僕はヘビを助けた事を後悔なんてしていないさ。ちょっと周りから驚かれたり、怖がられたりするけどね」
「そうなの。私達アースグス種はね、昔は民衆の味方だって囃し立てられていたけど、私には力もないし魔法もすごいのが使えるわけじゃないのよ。でもたった一つだけ人の心の優しさを見る目は誰にも負けないのよ。そしてメディは私がこれまでボルキスで出会った誰よりも心優しい人だわ。でもちょっと待って頂戴」
ジョーがもう一度席を立ち僕の後ろへ回ると後ろから抱きかかえるように僕の胸を揉んだ。
モミモミ。あっ!
ううん、いや、あっ、そ、それはちょっと。
「あーやっぱり、メディはちょっとお胸小さいけど女の子なんじゃないのよ。もうせっかく私にいい彼氏が見つかったかと思ったのに、、、でも私とお友達になって頂戴」
「いや、そうじゃないんだ。アースグス種と同じで僕らも『アンドロギュヌス』(両性具有)なんだ。僕はこれでも男として生きているよ」
「まぁなんて事なのよ。両親以外に両手の他に羽根がある人を初めて見たかと思えば、その人がさらに私達と同じ『アンドロギュヌス』だなんて、これは神様のお導きだわ」
「僕もだよ。家族以外では初めて見たよ。そしてこんなに美しい天使を見たのも今日が初めてさ」
「まぁ人をおだてるのが上手ね。こうしちゃうわ」
モミモミモミ。
僕が少し赤くなった顔を向けるとジョーは優しくキスをした。
「ねぇ、しばらく私をここの家に住ませてくれないかしら? 頑張って食事でも何でも作るわ」
「それ以上僕の胸を揉まないって約束してくれたらいつまででも居ていいよ」
「わかったわ、じゃあ違うところにするわね♪」
それから僕はジョーと生まれて初めて寝て、正式に男になった。
そしてジョーにそっくりな子供が生まれた。僕に似なくてよかった。この頃僕はそのまま平和で幸せな時が過ごせると思っていた。
◇◇◇◇◇
パーシアスの母はこの国の王の娘であった。しかし跡継ぎの存在を狙う勢力により神託があったと報告され、娘の未来の子供つまりは孫が王の命を奪うという酷い神託で、娘はそのまま城の地下牢へ幽閉された。根も葉もない話である。しかし地下牢に幽閉されていた娘は子を産んだ。それがパーシアスだ。人々の噂では『入れるはずのない牢には霧になった神様が入り子を成した』とされその後、半神と言われるようになった。ここではその事に関する真実は伏せておこう。
驚いた国王は娘と孫を箱詰めにして川に流すと死ぬはずと思われた二人は近くの領主によって救われた。勿論王女が絶世の美女であったからである。その後パーシアスは母とその領地で過ごしたが、その領主は王女に恋い焦がれやがてパーシアスの事が邪魔になって来た。パーシアスの事を半神を元に英雄に祭り上げそして石化の魔法を使うヘビを頭に飼う化け物の退治が命じられた。退治が終わるまで帰ることは許されなかった。
(※作者注:ここは、かなりの脚色はありますがほぼペルセウス座流星群で有名なペルセウスの神話からの引用も多くかなり近いお話です。金の雨になって牢に忍び込みエッチしたとされるのは神話ではゼウスです。神話からの引用が多いのでここの部分は後で改変もしくはカットするかもしれませんがご了承下さい。◇◇の間)
母を愛していたパーシアスは母が領主の事を嫌っている事を知っており、なんとか早くに戻らなければならない。手段を選ばず、他にどんな被害が出ようとも早く退治するしか母を救う方法はない。
パーシアスは金に糸目をつけず様々な情報を手に入れメディの姉妹を見つけ出し呪いをかけた。どうしてもメディの居場所の口を割らない姉妹を襲いその証に姉妹の目玉を手に入れ、ようやく口を割らせた。勿論姉妹に悪い噂が立つようにした。
そしてパーシアスが初めてメディのところへ訪れることになる。
◇◇◇◇◇
さらに数年が経過し、メディとジョアンナの間に双子を挟み六人目の子供が生まれた頃である。ジョアンナはついに若年性の皮膚硬化症が発症してしまい、その美しい左手を動かす事が出来なくなっていた。しかし絶滅の危機にあったアースグス種は今七人目がお腹の中にいる。ジョアンナは生あるものとしての努めを果たしたと言う感はあるが、メディや子供達の行く末を見守ることが出来ないのかと毎日泣いた。七人目が生まれた後、ジョアンナのレイノー症状(しびれを伴う虚血症状。チアノーゼなど)が現れていたがメディが必死に治癒魔法で治療した。そして八人目を身籠っている際にメディの前にパーシアスが現れた。
◇◇◇◇◇
「お前がメディか? なるほど醜い姿だな。俺は母上を助ける為にお前を退治しなければならない」
「パーシアス。君からは神々の力など感じられない。半神というのは嘘っぱちだろう?今なら返り討ちにしないでそのまま帰ってもらってもいいが、どうする?」
「お前の能力が凄すぎる事は知っている。俺はお前を倒せないだろう。しかしお前が死んだら俺が倒した事にして貰えないか?」
「半神の英雄よ。君はなんて情けない事を言うんだ。そんなの君の功績でも何でもないじゃないか?」
「それでも真実を知っている者がいなければ同じ事だろう。でも俺はお前の姉妹を襲いなかなかお前の居場所吐かないから目玉を手に入れてようやくここを吐かせたんだ」
「なんだと!」
パーシアスが目玉を見せるとメディはカンカンに怒った。パーシアスはメディに全く歯が立たない威圧感を感じ、そのまま敗走した。
それからというものパーシアスからは手紙が届くだけとなった。早く死んでくれと言う呪いの込められた内容だった。パーシアスからの手紙は神父様に預け自分が死んだら開けて欲しいとお願いした。
◇◇◇◇◇
八人目が生まれるとジョアンナの身体は石のように硬くなった。後数時間と持たないだろう。神々に嫌われたアースグス種族の純粋な生き残りの最後である。
ジョアンナはあまり上手く動かせない口で懸命に最後にメディに話しかけた。
「メディ、愛してるわ。私はあなたと出会えて幸せな人生だったしあなたと子を成して種としての役割は果たせたと思うけど、どうしてもメディと子供達の行く末が心配なのよ」
「ジョー、たとえ君が神々から嫌われようと、世界中の皆んなから嫌われようと僕は君といつまでも一緒だよ。心配しないで」
「世界一心の優しいメディ。今までありがとう。最後にお願いがあるの」
「何?」
「私が死んで、このまま石のように硬くなったらこの家の守り神として屋根に私を置いておいてもらえないかな? そうすればいつまでもあなたや子供達を見守ることが出来るわ」
「嫌だよ、僕も一緒だ」
「わがままを言わないでメディ。お願いよ」
「・・・わかったよジョー。君の言うとおりにするよ」
「ありがとうメディ」
ジョアンナは手を伸ばそうとしたが動かなかった。美しい天使は一筋の涙を流すとそのまま息を引き取りそして石のように全身が硬くなった。メディはジョアンナの願い通りにすると自らの命を絶ちジョアンナの後を追った。
その後・・・父不明の子ペルセウスはメデューサを退治したとされ英雄として国へ戻った。
天使のような種族であったが神々だけでなく貴族や魔女達からも嫌われそして民衆からも見捨てられ、恐ろしい悪魔としての伝説と数多くの酷い石像だけが今に残る。たまに美しい女性の形をした真実を伝える石像もあるが稀である。そして子孫を増やせたアースグス種は先の世界大戦で活躍する事となり重要な戦力として戦後間もなくまでボルクに残る事となった。
大戦の最中、アースグス達を恐れた敵国ではアースグス種の事を畏怖の念を込めて『ガーゴイル』と呼んだ。
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