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賊の頭 鶴
夕方になると、急ぎの会議が開かれた。 集まったのは村長と息子の源太と、弥彦の親友である喜三太が選ばれ、中央には弥彦が座っている。
村人たちが夕刻までに、それぞれ戦える人やその他の役割分担を決め、その細かい数字が手元へ届けられていた。
「弥彦よ、して今後の動きは?」
村長が会話の先頭を切りだした。
「敵はおそらく、こちらの戦力を甘く見てくるかと、そして必ず丸人もくるかと」
手前の資料には、戦力になりそうな数は僅か三十と、こころもとない。
しかも、訓練を受けていない素人集団である。 装備もボロボロの服と農機具に竹の槍が精一杯。
「敵の数は概ね二十人ほどか、多いな」
喜三太が周りの様子を確認しながら、手を上げて質問を投げかけてくる。
「なんで、相手は二十人ほどだってわかるんだ? たしか屋派の館には武者が六十はいると聞いたが」
「むろん、全てを引き連れてはこれないだろう、特に父の全人は、自らの保身しか考えない畜生で、領主に騒ぎを嗅ぎ付けられては、息子といえど止めるであろう」
しかし、あの丸人は止まらない、むしろ父に黙って兵を用意するに決まっている。 そう告げた弥彦の考えでは、気が付かれずに丸人が用意できる最大規模の人員が概ね二十と予測したのだった。
村長が顎を撫でながら呻る。 鍛錬され鎧兜を身に纏った強者ぞろいにどうやって太刀打ちできようか。
「この谷は天然の要害です。 正面からしか攻められません」
「ならば、守るのはできそうか?」
まだ若いが血の気の多い源太がソワソワとしだし、今にでも飛び出しそうな装いを見せる。
「守るのはできましょうが、食料も体力もないこちら側はいずれ耐えきれなくなり、容易く落ちるでしょう」
喜三太が小さくため息をついて頭を掻きむしった。
「八方塞がりということか弥彦?」
「いや、そういうわけでもない、勝機はあるかと」
ザワっと空気が騒いだ。 誰しもが相手の巨大さに困惑しているのにも関わらず、彼は『勝機』という言葉を口走った。
「一回勝つのは可能ですが、それでは戦力で劣るこちらがいずれ負けるのは必至、ならばその後も考えて行動をする必要がございます」
「は、はやく、その方法を教えろ」
喜三太は嬉しいような不安なような、複雑な表情で弥彦を見つめる。
「こちらの戦力を増やします」
それを聞いたその場の全員が一斉に肩を落とした。
「弥彦よ。 それは無理だ。 お前も村の現状を理解しているだろう? いたずらに戦力を増やしても死人を増やすだけだ」
「もちろん、ならば手っ取り早く戦力を増やすに方法がございます」
全員の脳内になんとも表現し難いモヤモヤと雲がかかったような発言に、煮え切らず源太が発言した。
「だから! その方法を教えてくれと言ってるではないか!?」
少し思案する素振りを見せつつも、彼は既に道しるべを見つけ出している。
「少々危険を伴いますが、鶴を仲間に引き入れたいと思っております」
「な……‼」
あれほど、険しい顔をしていた源太が青白い顔をして後ろに引き下がった。
「正気か⁉ 賊を仲間にいれるだと?」
弥彦はただコクリと頷くだけでが、眼は真剣だ。
ただ、喜三太だけは静かに黒く染まった天井を眺めている。
「鶴ねぇ、なるほど、弥彦ならできるかも」
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