賊の頭 鶴

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 パキッと、乾いた小枝の折れる音が聞こえ、それを合図にするかのように弥彦が叫んだ! 「今だ‼」  ギョッとした表情になる賊の男たち、荷車に被せていた布が蠢くと同時に囚われていた喜三太は赤錆が目立つ(くわ)の鉄の部分を取り外した粗末な刃物を鶴と思われる女性に向ける。  不意を突かれた女性は反射的に逃れようとするが、喜三太が疲れた体に無理やり力を入れて掴みかかった。  それを見た男たちの注意が後ろに逸れたのを見逃さず、荷車の布の中から源太を先頭に数名の男が出てくるなり、状況を理解できずにいた男たちを捕らえだした。 「いけいけ!」  暴れる猪のごとく源太が腕の太い男の胴に、磨かれた木の棒でキツイ一撃を入れるなり、白目をむいて泡を吹きだした。   いかに屈強な賊と言えども、不意を突かれたかたちになり数では互角だが呆気なく無力化された。  しかし、喜三太が掴んでいる鶴はそうもいかず、持ち前の力強さを生かし、無理やり彼を引きはがそうとしている。  そして、ついに彼女の小太刀が喜三太をとらえようとしたとき、弥彦が声を出した。 「鶴‼」  その声を聞いた女性はピタリと動きを止めると、ゆっくりと声の主へ顔を向ける。 「その声、よもや……や、弥彦か?」    ほっかぶりをとり、弥彦は大きく頷いた。   「鶴! 久しいな!」  小太刀を力なく落とすと、スルリと喜三太がその腕から抜け出した。   そのときの彼は、なぜか不思議な笑みを浮かべながら右の頬を掻いている。    周りの賊たちは既に無力化され、鶴は地面に寝転んだままだ。 そこに弥彦が行くと優しく手を差し伸べる。 「息災か?」  鶴はその差し出された手をじっくりと見つめているが、急に我に返ったかと思うと、勢いよく起き上がると同時に小太刀を拾い上げ、敵対の構えをとるが、喜三太が手を二度鳴らし辺りを指さすと彼女は諦めたのか、大きなため息を一回吐くと小太刀を弥彦の足元へ投げ捨てる。 「で? なんのつもりだい? 私を売るか?」 「いや、違う。 すまないが、オラの話だけでもきいてくれ」  弥彦は足元に落ちている小太刀を拾い上げると、それを鶴に手渡そうとした。  周りは一瞬信じられない表情をしたが、鶴と喜三太だけは変わらなぬ表情のまま小太刀を受け取った。 「話ってなんだい?」 「ここではなんだ、よければ村に来てくれないか? 怪我人もいることだし」  鶴はその綺麗な髪を右手でかき分けると、小太刀をしまい弥彦に答える。   「村ね……まさか、お前の村だとは、今更どの顔して戻れっていうんだい」    風が山の間を巡っていく。  サラサラと艶のある髪をなびかせながら、彼女は村がある方角を見つめた。 「すまない、私は村に戻ることはできない」  しっかりと地面を踏みしめ、土のついた右手で顔を擦る。   「話だけでも無理か?」 「無理だから、捨てたんだよ。私にはもう何も残っちゃいない、あるのは仲間たちだけさ」  捕らえられている男たちの頬が僅かに緩む。   「でも、弥彦たちも事情がありそうだね。 わざわざこんな大掛かりな行動するって」    源太が倒した男がうめき声を発しながら起き上がろうとするが、源太によってすぐに地面に伏される。  弥彦は鶴を見つめたまま、ゆっくりと村の未来を告げた。 「このままだと村が滅ぶ」  
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