ぼくの夏休み

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 僕はほっぺたの痛みと咳き込む苦しさで目が覚めた。  ぼんやりとした視界が徐々にはっきりしてくると、心配そうに僕を見下ろす女の子が僕のほっぺたを叩いていたことが分かった。  僕と目が合うと女の子はホッとしたように溜息を吐き、キッと目を吊り上げて 「だから言わんこっちゃない! 川の中は急に流れが変わるのくらい常識でしょ!」  僕と同じくらいの年だろうか。  女の子は けたたましく叫ぶと、一本に結んだ長い髪を揺らしながら僕の肩を激しく揺さぶった。 「痛い、痛いよ」  僕は女の子の手を振り払い、まだクラクラする頭を左右に振って、ゆっくりと起き上がった。   「あのさ、さっきから気になってたんだけど、きみ、もしかして この森、抜ける気だった?」 「……」  僕は黙ったまま答えなかった。  だってこれは僕だけの冒険だ。他人にとやかく言われたくない。 「そんな恰好であの川を渡ろうなんて危ないに決まってるじゃない。第一、ひろき、運動音痴でしょ」 「え?」  そりゃ運動音痴なのは認めるけど 「どうして僕の名前知ってるの?」  今、会ったばかりなのに。  不思議がる僕に女の子は 「きみが持ってたリュックに名前書いてあったから」  そう言えば、何かあった時のためにって、お母さんがここに来る前、嫌がる僕を無視して強引に名前を書いたんだった。 「そうだっ、僕のリュックはっ??」  あれなくしたらお母さんに怒られるっ――!  慌てる僕に、呆れ顔で女の子は僕の横を指差しながら 「これのおかげで助かったんだよ、感謝しなさい」  僕の横に置かれていたびしょ濡れのリュックが、川の流れに浮き沈みする僕の位置を知らせてくれていたという。 「きみが……助けてくれたの?」 「他に誰かいる?」 「……ううん、有難う」  僕は急に恥ずかしくなって、俯きながらお礼を言った。  自信満々に詰め込んできた、お菓子もジュースも双眼鏡も携帯ゲームも……全然役に立たなかったんだ。  この子がいなければ、もしかしたら僕は死んでたのかもしれない。 「でさ、まだ冒険続けるの?」 「も、もちろんだよ。こんなことで止めるもんか」  強がりではなく、心底思っていた。  こんなとこでくじけてたら、この夏の僕の冒険は失敗に終わってしまう。  何が何でも一人でやり遂げるんだ! 「へーぇ。本当にそう思ってるんだったらさ、私も冒険の仲間に入れてよ」 「え?」 「何、その顔、イヤなの?」 「そ、そういうわけじゃないけど……」  本当はそうなんだけど、こんな状況で断るに断れないじゃないか。 「わかった、一緒に行こう。それで……きみのこと何て呼べばいいの?」 「私? 私のことは……‶姫様”って呼んで」 「ひ、姫様ぁ?」  僕は一抹の不安を覚えた。
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