ぼくの夏休み

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「ち、ちょっと待ってよ!」  姫様の足取りは軽く、足元が不安定な森の中をどんどん先に歩いて行く。  さすが地元っ子というのだろうか、これじゃ僕の冒険と言うよりは、まるでおてんばなお姫様の後について行く運動音痴の召使いみたいじゃないか。 「ひろきー、そんなスピードで歩いてたら日が暮れちゃうよ!」  僕の呼びかけに振り返り、楽しそうに答えを返す姫様。  確かに木々の隙間から差し込む日差しが、さっきより暗くなってきてるような気がする。  あまり遅くなれば、爺ちゃんやお母さんが探しに来てしまうかもしれない。  それじゃ冒険の意味がなくなってしまう。 「よーし!」  姫様に追い付こうと小走りになりながら僕は 「絶対、この森を抜けるぞー!」  右手の拳を空に掲げ、そのまま走り出した。     どのくらい、森の中をさ迷っていたんだろう?  とは言っても、常に姫様の後をついてってたような気がする。結局、一度も僕は姫様の前を歩いていない。  それでも初めの頃みたいに距離を離されることなく、並んで黙々と歩いていた。  時折聞こえる鳥の声に耳を澄ましたり、珍しい花を見つけると姫様は色々教えてくれた。時には洞穴で姫様と横並びに休憩しながら、リュックの中、びしょ濡れになるのを免れていたお菓子を一緒に食べて、ジュースも回し飲みした。  女の子とこんな風にジュースを飲むなんて初めてのことで、悔しいけれどちょっとドキドキしてしまう。姫様は……どうだったんだろう?  肩が触れるくらいの距離で横を歩く姫様の顔を横目でチラチラ見ながら、僕は今まで感じたことのない気持ちに戸惑っていた。
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