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「あの、さ、姫様……」
「ひろき、大きくなったよね」
「え?」
突然、何を言われたのか分からず呆然とする僕に
「最初に会った時より、おっきな男になったねって言ったの」
姫様は前方を指差しながら、今まで見たことのない優しい笑顔で僕に微笑みかけた。
「もしかしてあれって……」
だいぶ暗さが増してきた森の中、姫様の指さす方が薄っすらと明るく光って見える。
やった!
森の出口はすぐそこだ!
僕と姫様は、光の見える方へ勢い良く走り出した――
「あれぇ? ここって……」
森を抜けた先に見えた景色に、僕はポカンとなってしまった。
そこには見覚えのある風景が広がっている。
お父さんが仕事で一緒に来れない時は、お母さんと、もう少し先に行った所にある停留所でバスを降り、この道を通って爺ちゃんちに行っていたのだ。
「そっか、あの森はここに繋がってたのか!」
僕はそれを知り、何だか少し大人になったような気がして興奮した。
「姫様、知ってた? 僕、この道知ってる」
僕はちょっと得意げに姫様に向かって声をかける。
少し離れたところで、姫様はなぜだかちょっと寂しそうな顔をしながら
「しーね、ひろきのこと大好き」
「しー?」
「うん、私の名前、しーちゃん」
「しーちゃん……」
僕にはこの気持ちが‶好き”っていうものなのか、正直、良く分からないけど
「僕も……好き、だよ」
「本当?」
僕の言葉にパッと顔を輝かせ『姫様』から『しーちゃん』になった女の子は
「今日はありがと。とっても楽しかった。またね!」
大きく手を振り、嬉しそうにスキップしながら今来た道を戻って行った。
僕は後姿を見送りながら
「しーちゃん……またね」
こうして、僕の夏休み最大の冒険は幕を閉じたのだった。
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