12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
硬貨1円目 タダの10円
ある夏の暑い日のことだ。
気温は30度を悠々と超え、31度、32度と今季最高気温をマークしようとしていた、まさにその頃。
紫外線による視覚の歪みか、はたまた熱中症による幻覚か、不思議なことに空から10円玉が落ちてきた。
唐突に、晴天の青空のもと、僕の目の前に颯爽と降り立ったのだ。
初見の感想は、鳩か烏か雀のフン、あと一歩前に出ていたものなら、確実に当たる距離感。
1度目の確認を経て、2度目の確認、色は茶色いが、フンなどの類いでは無い、平べったい円板状の物体、それは光を反射してこちらに浴びせかける。
前述した通り、10円玉、そして平等院鳳凰堂を上に表している。
暑い日差しの中、自販機へと向かう途中の
出来事。
タイミング的に自販機に投入してくださいと言わんばかりの落下地点。
道路沿いの自販機の真横、そしてそれを目指す、男の目の前。
腰を下ろし拾いあげ、ギザが無いことを握りで感じ取り、暑い住宅街の中、周りを見渡す。
通行人は誰もいない、周囲を取り囲む住宅はカーテンを頑なに閉め続ける、それと共に窓を開けるものも、また誰もいない。
人の落し物ではない可能性を認識する、脳裏によぎる予想は、鳥の落し物。
特に、光るものを好む烏の可能性。
一応なりとも、二十歳という身である彼は、思考する。
右手に持つ財布の中身を確認し、落下してきた10円、まさに落し物の10円硬貨をもうひとつの手の内から覗き込む。
少しの思考の末、持ち主を探すことを諦める結果に至った、今の状況下ではそれが適切なことだと自分の身が必死に上から下へと頷きかける。
汗の滴りという、行動ではなく体温調節機能によって。
身体は今まさに潤いを求めていた、そのせいなのか、財布に1枚、新たにコインが入場した。
最初のコメントを投稿しよう!