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硬貨10円目 ピッタリの善意
歩みをこちらに進める、看護服を着た女性もとい、ナースの女性。
彼女はこちらの様子をチェックするように、ボードに紙を乗せ、ボールペンをクルリと1周させた後、言葉を発する。
「体調は大丈夫でしょうか? 具合が悪い、または吐き気や目眩などの症状は感じられますか?」
声をこちらに向かわせ、僕の様子を観察するように、間を空け、その後手元のボードに目を合わせ、こちらの声に耳を向ける。
「えっと、大丈夫です、寝起きで少し身体が重いと感じるくらいですので」
「はい、分かりました。もし身体の調子が悪くなって来たように感じられた場合や点滴が終わった際には、そちらのナースコールのボタンを押してくださいね──では私は一旦これで」
ペンを紙に走らせ、その後、入ってきた扉に戻っていき、「失礼しました」と一礼をしつつ、外へ出ていく。
ナースの女性の退出を横目で見終え、暇な時間が淡々と流れ考える。
一体何が起きたのだろうか?
この時間を使い、今の自分の状況を整理していくことにした。
まず外出していて、飲み物を買って帰宅しようとしていたら──。
「倒れたのか?」
ベッドに寝かされ、腕には点滴がされているのに意識を向け、自分の身体に何かトラブルが起きたのだと察する。
周りには他の患者は見受けられず、それと同様に見舞いに訪れた人も、また居ない。
そう思っていた瞬間、井幕の1番近くにあった椅子が大きく軋むような音を立て、それに驚き、頭を動かすと──。
──誰も居ない。
確かに誰も居ないのだが、そこには小さく光るものが残っている。
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