硬貨10円目 ピッタリの善意

3/6
前へ
/16ページ
次へ
何故ここに来てしまったのか、横を通り過ぎる電車の姿を見て考え思い出す。 「あっ、そうか、って言われたんだった」 身体はそれを覚えていたらしい。 ここに来たのに合点がいき、ホームの椅子に座り込み。 「あれ? そういえば──」 切符どこ入れた? ポケットを探し、財布の中を探す。 どこにも見当たらない。 不味いことになった、また買い直さなければいけない......。 「すいません、これ落としましたよ」 そんな時、若い女性が話しかけてきた。 「え、あ、ありがとうございます......!」 井幕(いまく)は、突然の出来事に動揺しつつも礼を言った。 「いえいえ、これからは落とさないよう気をつけてくださいね、見つからなかったら大変です!」 優しく微笑みながら、こちらにぺこりと頭を下げ、彼女は丁度今到着した電車に乗り込んで、姿が見えなくなった。 「綺麗な人だったな......」 それを思いながら、彼女の乗った電車乗り場の逆方面にある、目当ての家方角の電車の到着に気づき、それに乗り込む。 ゆっくりと、たびたび急に揺れる車内。 椅子に座り、手元が暇になったので、財布の中身を確認する。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加