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何故ここに来てしまったのか、横を通り過ぎる電車の姿を見て考え思い出す。
「あっ、そうか、電車で帰ってくださいねって言われたんだった」
身体はそれを覚えていたらしい。
ここに来たのに合点がいき、ホームの椅子に座り込み。
「あれ? そういえば──」
切符どこ入れた?
ポケットを探し、財布の中を探す。
どこにも見当たらない。
不味いことになった、また買い直さなければいけない......。
「すいません、これ落としましたよ」
そんな時、若い女性が話しかけてきた。
「え、あ、ありがとうございます......!」
井幕は、突然の出来事に動揺しつつも礼を言った。
「いえいえ、これからは落とさないよう気をつけてくださいね、見つからなかったら大変です!」
優しく微笑みながら、こちらにぺこりと頭を下げ、彼女は丁度今到着した電車に乗り込んで、姿が見えなくなった。
「綺麗な人だったな......」
それを思いながら、彼女の乗った電車乗り場の逆方面にある、目当ての家方角の電車の到着に気づき、それに乗り込む。
ゆっくりと、たびたび急に揺れる車内。
椅子に座り、手元が暇になったので、財布の中身を確認する。
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