硬貨2円目 自販機

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硬貨2円目 自販機

自販機の前に足を立たせ、自身の財布の小銭置き場を漁る、小銭の量がかなり多い、それも10円玉が特に、だが入っているのはタダの10円玉ではない。 ギザ十、ギザギザを持つ今はもう製造停止した、古き頃の10円硬貨ばかり。 その中に確かに、100円や50円なんかもあるのだが、ギザ十にその身を隠されて、存在をあやふやにされている。 そんな存在感を薄くされた、100円と50円を漁る中で見つけるなり手先で持ち上げ、自販機に投入。 金属と金属のぶつかり合う音が機内から聞こえて来た後、150と投入口付近のパネルが光を表す。その瞬間、身体は既に行動を起こしていた。 「炭酸飲料を...早く飲まなくては......。死んでしまう...。」 手を横三列の1番上にすかさず伸ばす、その先には、定番の清涼飲料水達の溜まり場が出来ており、それを呼び起こすボタンがいつもの定位置に設置されている。 確認して、慣れた手つきでボタンを押す。 ──遂に、この時が...来た! はずなのだが様子がおかしい、反応がない。 3秒程待ってから、手元を見て、それからボタンに向き直り、「ん? おかしいぞ」と、再び思い至る。 疑問は残るが、もう一度同じボタンを押して、少し待つ。 ──だが、やはり反応はない。 それでも諦めず、最後にダメ押しで、力なき手先の渾身の一撃をボタンに放つ、これは確実に反応があるはずの勢い、やっと飲める......! そんな気持ちに一瞬なりかける程に力と想いを込め──。 「──ガシャンガシャン」 自販機の揺れる音が聞こえる、もしかして、これはもしかするのでは、期待の念を感じ、下の取り出し口を覗き込むと。 ──何も無い。 普通に勘違いだった、力一杯にボタンを押したことにより揺れたその音を、完全に聞き間違えていた。 それに気づいてから少しして、自分の指に痛みを感じ目を向ける、赤い。かなり赤い。 そして、痛い。 アホ過ぎる......。 自分の行動が起こしたハプニングに動揺しつつも、立ち上がる。
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