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硬貨5円目 解放
地獄だ、ここは地獄だったんだ。
意識が薄れ行く中で、ひたすらにそれを思い続けた。
視界が徐々に真っ白から黒く暗くなっていく中、見えていたのは、黒い液体の禍々しい泡立ちと、永遠にも思える長い道、そして地面に転がる、金棒のような透明な容器。
あぁ、悪くない人生だった......。
最後に心で決め台詞を放ち、カッコつけながら、眠りにつく──。
「って、冷た?!」
残念か必然か予定はズレる事になる、頬に冷たい物が当たることで。
熱い地面の上に顔を置くのかと思っていた矢先の出来事、予想外の冷たさに身が浮かぶ。
膝に力を込め、頭を上げて、冷たく感じたその正体を見つめる。
コインが2つ、落ちている。
それも見覚えのある、コインが──。
少々思考した、しかし先程からの絶望感のせいで疲れ果てたので、また寝ることに。
おやすみなさい──。
「って、また冷たい?!」
先程と同様、コインに目を覚まさせられる。
あー、もうこれ、寝ようとし続けたら無限に続くやつだ。
先に進まないやつだね、これは。
ご都合ともいえる、窮地からの脱出に成功し、目覚ましコインを再び見つめた。
「10円玉......!」
見た瞬間、咄嗟に声が出た。
もしかして、これはギザ十なのでは?
そして反射的に落ちている10円玉を拾い上げる。
しかし残念ながら、ツルツル10円。
決論から言うに、災厄。
目覚めた意味がない。
いまいち10円に魅力を感じられない。
眠りたい気持ちが再び芽生えて来る、だが、よくよく考えたらここで寝たら確実に死ぬ、まだ死にたくはない、それに折角の目覚めを無駄にするのはちょっと、という勿体ない精神がボッーとする頭の中に、送られてくる。
そして、この精神は最終的な起き上がりの決定打を生み出すに至り得た。
「ここは僕に相応しい死に場所ではないな」
普段は絶対に言うことの無いはずであろう、ナルシスト的かつ、厨二臭い言葉をあたかも、あれ? 今の台詞、カッコ良くね? あ、僕がカッコイイのか、と思わせるほどに燃え上がる。
これを言ったからには起き上がる以外、有り得ない。
──我ながら、ダサく潔くない生き様だ。
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