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硬貨8円目 終着駅
夏の日差しを遮る室内。
その中を照らすのは、窓からの光景たちだけだった。
そこは縦に長く、横に短い、そして道のように奥へと続く細い場所。
そこには、クッション付きの柔らかな椅子が綺麗に、均等に、真ん中の道を挟む形で置かれ、床に張り付き並びを崩すことはない。
「シューポッポォー」
汽笛の音が何処も彼処も響かせ始め、そろそろ出発の時間のようだ。
懐かしくも古臭い、
──真夏の旅が始まった。
蒸気機関車──。
今そこに居るんだと、ここだけの音響の目印によって知らされた。
その瞬間──。
車内が揺れ始め。
それと同時に床に転げ、倒れ込みの状態へ。
床へとぶつかりそうになりかける中、急いで目のピンとを正面に合わせ──。
──間一髪、腕を身体の向こうに伸ばし、
手の平は外側へと見えるように、床に落とし、着地する。
その後、下向きの自分のその周りから聞き取れない程小さな声が聞こえてくる。
身体をその声の主が見える程度に起こし、見渡し、探そうとする。
しかし声の方には、誰もいない──。
不可思議に思いながら、更に見渡す、
すると真後ろの椅子に何人かの集団が座っていたのに気づいた。
その誰かは、皆こちらに手招きをして僕を呼んでいる。
呼ばれている、行かなくては──。
ゆっくりとバランスを保ち、その人達の方へと這いつくばる様に近づき、彼らの椅子まで辿り着く、彼らは椅子に指をさし、座って座ってと僕に促す。
僕は何故か安心した気持ちで席に着き──。
優しい彼らの姿を確かめたくなって、目を向ける、しかし見ようと目を凝らす程に、周りが白黒の世界に変わり、その姿が見えなくなっていく。
やがて諦め、自分自身の足の膝上を覗き込む、そこには重なるように映し出された、窓からの光が確かに見える。
心がざわめきたつ──。
「ガタンゴトン、ガタンゴトン」
だから見えないように目を瞑り、車内の音に耳を傾けた──。
だが何故だろう、止むことなく流れ続けるこの音に、悲しみを覚えてしまう。
悲しくて寂しくて堪らない──。
悲しみの連鎖──。
だが、その心中を断つように、音が突然消え去り、静寂が訪れ、次は周りの彼らが騒がしくなり始める──。
しかし、彼らは──。
──徐々にそして、忽然と姿を消した。
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