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硬貨9円目 ありがとう
目の前が真っ暗だ──。
何も見えない──否。
暗闇が見えていると言えるのだろう。
眼光の力無き、その目の内には自分自身で先を見据える程の余力は無い。
瞼が微小たりとも打ち開きに辿り着けない。
暗闇が眼球に空間作られ、何も感じない。
──はずなのだが、中耳の響きか、内的世界の妄想なのか。
声が聞こえてくる──。
優しげで高い声音、聴く限りは女性の声が聞こえてくる。
「今──まで」
「あ......」
「...り」
「......が」
「t────」
声が途中から少しずつ遠くへと、自分の元から離れていくように小さく変わっていき、最終的に途切れた。
今の言葉の意味に思考を傾けようと、脳が活動的になろうとした時、その入れ替わりに、間悪きタイミングで視覚が本来の機能を取り戻し。
──光を感じる。
黒を白へと真逆の色に変化させ、眼前に現在の状況を情報と変え、脳が受け取りに動き出す。
「眩...しい」
真っ白な部屋が見えてきた、輝きと相まって、その白さは更に際立ち魅せる。
この場所を自分は知っている、昨日の今日と訪れたことがある訳では無いが、印象深い出来事との相対ですぐに気づいた──。
「──また、この病室か......。」
だが、折角の気づきに思い耽る時間は与えられない様だ、近くの壁に響き渡るように大きな音が室内に通り過ぎ反響する。
「ガラッガラッ──。あ、井幕さん、目覚められたんですね......!」
看護服を着た女性が、優しく自分に微笑みかけつつ目の前に現れた。
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