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「なっ……」
投擲した石は空洞全体を照らし、その辺りにモンスターは見当たらなかったが、一瞬でそれは間違いだと気付かされた。
「上だ……」
空洞の天井、そこには黒い物体が無数に蔓延(はびこ)っていた。
「蝙蝠系ですかね?」
「そのようだ。 幸いにも気付いてはいなさそうだが、参ったな、飛翔するモンスターをあれだけとなると無傷では終われないぞ」
「それなら僕が囮になります。 それを皆さんで援護してください」
「まて。 とても危険なことだ。 簡単に了承はできない」
「そうしたいのには理由があります、僕は所謂、呪い持ちなんです」
「呪いというと、常に悪条件を与えられるという低確率でハンターが持つエンドスキルか?」
「はい。 但し、僕の場合、戦闘に支障が出るものではなくて、生命に支障が出るものなんです」
B級ハンターは真剣に心配するような表情で、頷いた。
「僕の呪いは『1日1レベルは上げなければ、24:00時点で命を落とします』という条件です」
「なんだ、その呪いは……」
「なんでこんな呪いなのかは分かりませんが、ひとまず先頭に立つことが最低条件になります」
「無鉄砲ではやらせれないが、それが本当なら先頭に立たせるのは仕方ないか」
「ありがとうございます」
「君にとって生きることはとても過酷な事だね」
「そうかも、しれないですね」
僕は短刀を1本引き抜いた。
あとは腰に備えている水と、発煙筒。
緊急の食事代わりと、目くらまし。
「それではいきますね」
「うむ、背中は任せてくれ」
「いきます!」
僕は空洞を一気に走り抜ける。
エンチャント石にたどり着いた瞬間、天井を見据えると、1匹の蝙蝠が異変に気付いて、超音波のような叫びをあげる。
同時に無数の蝙蝠が一斉にこちらに視線を集めた。
「こい!」
そこからは魔法が飛び交い、B級ハンターの助けもあり、軽症はいたものの、死者なく乗り越えることができた。
そして僕のレベルも上がった。
「君のおかげで乗り越えられたが、手厳しいな。
入ってすぐで、これ程とは」
「そうですね。 私がいてもこの先の調査は悩ましいな。 もっと組織的なメンバーを揃えた方が――」
ドォォォォン!!
後方から響き渡る爆発音のような音とともに、現れたのは牛のような頭と、剛力を表現するような筋肉、その大きな手には斧。
まるで何かの物語に出る魔物。
「ミノタウルスみたいだ」
振り被った斧は後衛を務めていた後衛ハンターに向けられた。
「まずい!」
その斧は容易く1人のハンターを真っ二つに切り裂いた。
途端、あがる悲鳴と広がる混乱。
状況を整理するために見回すと、あの美女は少し離れたところにいた。
(彼女は大丈夫だな。 それじゃああとは魔法系ハンターの救出を――)
「うわぁぁあああ」
叫びは混乱を招き、混乱は状況の悪化を助長する。
状況としては最悪だった。
そして最悪の事態を招いた。
統率のとれない中、斬撃は空をも引き裂き、B級ハンターの右腕を切り落とした。
周囲を庇っていたB級ハンターに回避の余地はなかった。
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