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それから僕らはホールを抜けて、街に戻る。
街に戻れば医療機関には凄腕の治療師が常勤しており、B級ハンターとはここでお別れだ。
片腕は申し訳なかったが、お咎めもなく礼を尽くしてくれた。
こちらとしては申し訳なさしかなかったが、悪い気はしなかった。
一応魔法に関しては口止めをして、連絡先だけは交換した。
問題はホールから続く視線。
「そろそろその殺気じみた迫力を抑えてくれないかな? 息苦しくて適わないよ」
「迫力なんか出てないよ」
「そうは言われても……」
「それよりさっきの魔法」
この子も口止めをしなきゃだけど、意思が強そうだし、なにか言いたそうだから、条件次第では口止めは難しいかもしれないと億劫な気持ちが湧いてきた。
「あんなの見たことない。 この世の属性に反してる」
この世の属性とは火・水・木・土・光の5属性をあらわし、それか外れるのは無属性と呼ばれる希少属性である。
「簡単に教えるわけにはいかないんだ。 これを教えると色々面倒そうだからね」
「それなら私の秘密も教える」
これには少し驚いたのと、不信感を持ってしまった。
そんな簡単に教えれるものを秘密というのか。
「そんな簡単に教えていいの?」
「どうせさっき、少し教えてるから」
「いや、うん、それでもそんな簡単なのかな?」
「まどろっこしい」
毒舌が目立つがそこは置いておこう。
絡むと更に面倒くさそう。
「貴方、光属性魔法を使ってたのに、突然あんな魔法。 まるで正反対の魔法だった」
ドキッとしたが、勘が鋭いのか、ホールでも危険な場面に安全な立ち位置を確保していた。
ただ思いきりだけで行動するタイプではないのだろうとは思う。
「それに関しては光属性魔法で間違いはないけど、少し魔法を弄ってるんだ」
「特性を反対にするってこと?」
やはり勘が鋭い。
ゆえに少しだけうざい。
こういうタイプとは長付き合いしないことが、トラブルを避けるコツだと僕は日頃から考えている。
「まって、僕から話すのは理に叶ってないよ。 君から近付いたなら君から言うのが信頼関係の第1歩じゃない?」
どうにもペースを掴まれそうだったので、話をすり替えよう。
そしてこのあと、衝撃の真実を聞かされた。
「私は死ぬ事のできない呪いに囚われてるの」
これには言葉を失った。
呪い、身に覚えのあるそのワード。
それは理不尽ゆえに、人生を簡単に塗り替えるこの世の不条理。
「安心して。 人を巻き込むようなものじゃないの。 ただ本当の相棒を見つけて、この世の真実を解明できればこの呪いは解けるらしいの」
「……気になるところはたくさんあるけど、らしい、っていうのは?」
「神様にそう告げられた」
「…………んっ?」
神様?
流石に話が飛びすぎていて掴みどころがない。
嘘とは言わないが、信じるにはあまりに話の軸に真実味が無さすぎる。
「信じれないと言いたいんでしょ」
怪訝な表情で問いかける美女に、僕は視線を合わせずに顎に手を当てて悩んだ。
それを見て、突然視界に入るように目の前に立ち、服を捲りあげて素肌を見せた。
一瞬、反射で視線を外しかけたが、そこにある文様に見覚えがある。
「黒い……聖御紋?」
聖御紋。
この世の全能の神が加護を与えた者にだけ現れるとされる白い紋様。
けれど、それは限りなく白とは程遠いものだった。
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