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「この紋様はね――」
「なんて綺麗なんだ」
「……えっ?」
僕はその紋様に見蕩れてしまった。
いや、この紋様がそういう風に造られている。
それは聖御紋だからというだけではない。
黒の聖御紋。
言葉にすればただ黒いだけの紋様だが、色にも魔力というのは独特の形で影響を与える。
白い聖御紋は言うならば、美しい水辺に咲く1輪の花。
そこに在るべくして在るという感覚に近いが、これは全てを染めるような絶対的な存在感。
魔力は聖御紋に溶け込むというより上塗りして、埋めつくしているような危うい感覚。
「しかしこれは――」
我を失い、つい触れてしまったそれはとても柔らかく、滑らかだった。
バチンッ――――
僕の頬に紅葉が色めいたことで、はっきりと意識を取り戻した。
「変態……」
「うん、まぁ否定してもしょうがないから、正直それで合ってると思う」
「それでね、この紋様なんだけど、ある日の夜、私が見た夢でね」
その日見た夢はとても不吉なものだったらしい。
見えるのは黒い砂が空から流れ落ちる暗闇で、所々に怪しく光る赤い花が、こころばかりかの照明になっていた。
そしてそこにいたのは黒塗りの天使。
その天使の表情を伺おうとした。
そしてはっきり見た。
見たが、覚えていなく、そこで目が覚めたというのだ。
そしてそこに、これは現れた。
「ということだね?」
「そうなの」
「うん、よくわからないね」
話の筋は分からないし、真実味もないが、紋様を見る限り、訳ありといった感じ。
「それでね?」
「あぁ、続きがあるんだね」
「その魔法なら私を殺せる?」
「えっ?」
「私をこの理不尽な紋様から助けて」
「待って待って、話が飛びすぎてるよ。 その呪いの代償が、そもそもあるんじゃないの?」
「私の最も愛する人を殺せば一生の命を、殺せなければ無償の死を与えるって」
なんだその理不尽すぎる条件は。
「それも夢で?」
「そう」
「…………」
だからって殺すことはしないけど、もしそれが天使なら随分と身勝手な。
前者ならまるで懺悔と後悔を噛み締めさせるような、後者なら無秩序な静寂を与えるような。
それは明らかに神の所業ではなさそうだが。
「それでも僕にはできないよ」
「やってくれなきゃ、ずっとついてく」
「なんだよ、それ。 いいよ、勝手にしなよ」
どうせすぐ諦めるはず。
意思は固そうだが、流石に常識はあるだろう。
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