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彼女の呪いは残虐で残酷-1
とりあえず再確認をしておかないと落ち着くところがない。
「確認することが幾つかあるけど、いい?」
彼女は頷いて、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
その圧が強すぎて、視線を躱すように身体を逸らすとそれに合わせて視線も動いた。
それはそうだろうけど。
「まず、自己紹介をしておこう」
「……そうだね、うん。 賛成」
やや控えたような、冷たいリアクションだが、これは仕方ない。
いつまでも美女とか、彼女と言っている場合ではない。
「僕の名前は汐莉楔だよ」
「私の名前は黒川水晶。 それより女の子みたいな名字だね」
「名字に女の子みたいとかないでしょ」
咄嗟にツッコミを入れてしまうあたり、簡単にペースを掴まれているのは否めない。
「そうだね。 とりあえず私のことはキララでいいからね」
「いきなり下の名前は少し気が引けるけど」
「私に告白したくらいだからそんなことないと思うけど?」
「こ……まぁ、そうなるのか」
これは言葉を重ねる程に、ペースを持っていかれる、つまり苦手なタイプだった。
嫌いではないが、単に自分のペースで喋れない相手という意味で。
「じゃあ年齢も聞いておこうかな。 僕は17歳、今はC級ハンターだけど、なるべくそれは隠してる」
「あっ、階級も言うんだね。 私は15歳、D級ハンターで主に近接戦闘を主体にしてる。 呪いの件もあるし、他の人よりは向いてると思ってるよ」
そこは向いているとかではない気もするが、ミノタウルス相手に粘ることができる程には戦闘に長けているようなので、余計には喋らないようにしておこう。
「それでキララの目的は、死ぬことで合ってる?」
この質問に少し怪訝な表情を見せて、身体を横に向けて地面を見つめ始めた。
その姿は細く、女性らしいラインに少し見蕩れてしまう。
「呪いを解けるなら解きたいけど、この呪いさ、期限付きみたいなんだ」
「どういうこと?」
「ある程度の時間で聖御紋のところが酷く痛むの。 その期間が少しずつ縮んできてるってことはわかってる」
なるほど。
それを僕が解くことができるとしたら、やはりこれしかないか。
「ちょっとごめんよ」
そう告げて、僕はキララの服に手を入れて聖御紋に触れる。
常に冷静にマイペースなキララもこれには「ひぇっ!?」と声を上げて、身構えるように両手を上げた。
「これもあくまで魔法式のようなものだから、触れれば分かるかもしれない」
困惑と、少しの羞恥心が見えるがかろうじて我慢は出来そうに歯を食いしばって見せた。
若干、得をした気分もなくはないが、あくまで解読のためだ。
聖御紋から魔力を感知する。
「うん。 魔力式は存在する。 けど……」
「うぅ……早く早く! 落ち着かないから早くぅ!」
この反応は嫌いじゃない。
強がってはいるが、まだ年頃の女の子というのは、行動を共にする上では癒しにはなる。
「ある程度、わかることはわかったよ。 ありがとう」
「……あんまりこういうの得意じゃないから」
冷静を装うが、ショートカットの髪からは耳が隠しきれず、赤く染まっているのがよくわかる。
「うん。 それで魔法式に関してだけど、解読できない部分が多いね」
「解読は出来なさそう? 出来たとしても難しいって感じ?」
「うん、そうだね。 今はわかる部分が少ないけど、これだけは言える。 相当な手練が創った魔法式か、神のそれか、だね」
解読が難しいのもあるが、魔法式は一通り意味合いがあり、書き換えれるかは置いておいて、意味はわかるものだった。
しかしこの聖御紋は明らかに意味が分からない点が多い。
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