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「ひとまず今の知識ではどうにもならないんだね。 じゃあ楔くん? を好きになるしかないんだね」
ここには照れを出さないのは天然なのか?
ボディタッチが苦手なタイプ?
不思議と興味は湧いてきた。
「くん付けはなくない?」
「歳上だから?」
「そうでしょ、普通」
「楔さん?」
首を傾げながら、僕の名前を読んでくるその声は、意図して甘さを加えたようだった。
これくらいの計算高さは持ち合わせているようだ。
なにより、嫌いじゃない。
「よろしい」
「なにそれ」
初めてキララの口元に笑みが零れた。
それがくすぐったくて、僕もついつい笑みを零してしまった。
「ひとまずペアで動くから2人のスタイルに合った立ち回りを考えなきゃいけないと思うんだ」
「呪いの解除も恋愛も先延ばしで、まずは生きることってことだね」
「そういうこと。 まずは僕のレベル上げないと今日にも死んじゃうしね」
危険度Dのホール、隣町と言えば、田園広がる完全なる田舎。
電車も1時間に1本しか走っていないし、バスも似たようなものだった。
「短刀2本だけで戦うの?」
キララは僕の腰掛けを見て、疑問を持っているようだ。
キララは諸刃の剣を差し出して「私はこれ」と誇らしげに胸を張る。
「情報開示」
僕が唱えると、キララは不思議そうに眉をひそめた。
「手入れは行き届いてるね、軽量だし切れ味も悪くない。 付与効果はないけど、いい剣だね」
「スキャンってなに? 魔法?」
これは僕の能力。
これも基本的には秘密にしているものだが、パートナーを組むキララには知っておいてもらうのが良いと1日かけて考えて、判断していた。
「これは僕の固有能力だよ」
僕は1度瞼を閉じて、能力を発動する。
全力で発動させて、瞼を開いた。
そこには目立たない黒い瞳ではなく、朱色に輝き、白に近い幾何学模様が浮かび上がっている。
「わぁ、綺麗。 私も触っていい?」
「いや、眼球触るとか怖すぎでしょ!」
「ちぇっ……」
僕は能力を解除すると、瞳は緩やかに黒色に戻っていく。
「これは魔眼っていうらしい。 今のところ、武器やモンスターの情報とか、後は魔力の流れが見えたり、感じたりすることが出来るんだ」
「それで私のお腹を触ったんだ、って見るだけでいいの?」
「うん」
「触る必要なかったってこと?」
「服があると読み取りづらいから」
「……変態」
「はいはい、ごめんってば」
不貞腐れのような表情で、わざとらしくしかめっ面を見せた。
ふと気になったのはそのリアクションだった。
「驚かないんだね」
「あっ、驚いた方がいいの? 固有能力は私もあるから珍しくないのかと思った」
「割と珍しいんだけど。 どんな能力なの?」
「代償っていうらしくて、確か魔力とか生命力を人に移したり、貰ったりできるの。 ただし、相手の同意があって出来ることみたい。 したことないけどね」
「リスクとリターンを同程度に伴うってことか。 割と使いづらい能力なわけだ」
「そうそう。 まぁ、それは使うかわかんないから置いといて、もうすぐ着きそうだよ」
キララがスマートフォンの画面を僕に見せた。
僕達のアイコンが光っているすぐ近くに危険度Dとかかれた緑色のアイコンが立っている。
「田んぼだらけでそんな気配しないけどあっちかな?」
「よーし! 気合いいれていこうか! 楔さんと初ペアだからなにもないように頑張ろう」
話してて感じたけど、昨日ほどの人を寄せ付けない雰囲気はなくなって、年相応の明るい女子という印象になっている。
なんでだろうと理由を尋ねたい気持ちもあるが、気持ち悪いか自意識過剰だなと、自制を効かせた。
とにもかくにも初ペア。
レベル上げと、キララの呪いを解く鍵を見つけなくちゃならない。
ホールに着いたら、誰も周りはいなかった。
汐莉楔 レベル28 C級ハンター 職業:万能
黒川水晶 レベル16 D級ハンター 職業:剣士
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